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2016年07月25日(Mon)

疑惑のチャンピオン 強制起訴シリーズ

起訴者: 元店主

強制起訴シリーズ68弾

アメリカ人でありながらツール・ド・フランスを7連覇した超人ランス・アームストロング。いったん癌で死にかけた所から復帰し、ツール7連覇をはじめ圧倒的な強さをみせ、さらに世界の癌患者を助ける基金「LIVESTRONG」を作るなど慈善家の顔も併せ持った事から、伝説的な存在にまでなったアームストロングであったが、後にチームメイトの告発によってドーピング漬けであった事が発覚。ツールの優勝を剥奪された上、自転車業界を永久追放となる・・・といった衝撃の展開で、ほんまに伝説の存在になってしまった・・・。
このランス・アームストロングを英国のスティーブン・フリアーズ監督が、事実に基づいた劇として撮った作品。

ヤマネ
この作品をケンタロウさんが選んだのは・・・やっぱババさんの事があるから?
マツヤマ
奇しくも、ババさんの命日は7月だしな。オレはよく知らないんだけど、ババさん、アームストロング好きだったんだろ?
元店主
はい。ババさんから「是非、読んで下さい」と言われてアームストロングの著書『ただマイヨ・ジョーヌのためでなく』を借りたんですが、結局読むこともなく、そのままババさんは亡くなってしまった訳ですが・・・
ヤマネ
わー、ケンタロウさん酷ーい!冷血無情ですね!
元店主
・・・まさかあんなに早く ババさんが癌で亡くなるとは思ってなかったし・・・。で、要するにババさんはアームストロングのドーピングは知らないままでこの世を去った訳です。「LIVESTRONG」の黄色いラバーリストバンドを手首にしたままでこの世を去ったババさんの事を思うと・・・
マツヤマ
ランスとはいっちょ片をつけとかなければならん!と思った訳だな。
元店主
いえ、まぁ、ネタにはなるかなー・・・てな感じなんですけど。
マツヤマ
ガク!・・・しかし、オレは自転車には全く興味がないしな。アームストロングとかもよく知らないんだよ。実際はどんな感じだったんだ?この三人の中では、ヤマネくんぐらいか、自転車知ってるの。
ヤマネ
まー、一応。昔はボクもツールとか観てましたよ。インデュラインの全盛期の頃です。アームストロングが出て来る前。あの頃は面白かったなー。
元店主
ヤマネくんは、アームストロングとかどうだったの?
ヤマネ
はっきり言って嫌いでした。だって、アームストロングが出て来てから、レースが面白くなくなったんですものー。アームストロングって、確かに強かったですが、面白みがないんですよ、走りが。つまんない。ボクは、グレッグ・レモンとかキャップッチみたいな個性的なレーサーが好きだったんです。
マツヤマ
ふーむ。それはやっぱりアームストロングがドーピングの力で強かったからか?
ヤマネ
いや、それは関係ないと思います。多分・・・昔の選手もドーピングやってましたよ。アームストロング以外の選手も、たくさんやってた。ほら、映画の最後でアームストロングを負かすコンタドール、覚えてますか?彼、映画では描かれてませんでしたけど、あの後、ドーピングで捕まるんですよ。ははは。
マツヤマ
なんだ、みんなやってるんじゃねーか。ってか、そういう所をちゃんと描いているのは良かったと思ったな。ドーピングはアームストロングという個人の問題ではなく、組織ぐるみの問題だった、と。だって、みんな知ってた訳だろ。自転車連盟も含め。でも、アームストロングというヒーローの出現のおかげで、自転車業界も潤う、それに乗じたマスコミも潤う、となったらみんな見て見ぬふりで、逆にそれを告発しようとする連中をみんなで潰しにかかる・・・と。オレはさ、同時期に観た『日本で一番悪い奴ら』を思い出したんだよ。
元店主
ああ、実際にあった「稲葉事件」を元にした邦画ですね。あれも、稲葉という一人の人間の問題ではなく、北海道警察という組織ぐるみの問題でした。ヤバくなったら、ひとりの人間に全ての罪を押し付けて、組織の人間は知らん顔する、ってのまで似てましたね。でも・・・私は『日本で一番悪い奴ら』は凄く面白かったんですけど、この『疑惑のチャンピオン』の方は・・・あんま面白くなかったんですよねー。
マツヤマ
オレもそうだよ。ま、自転車業界のあれこれやドーピングの事とか、興味深い事実のあれこれが知れたのは面白かったけど、映画としては、つまらんなー、という感じかな。
ヤマネ
そですね。映画としては微妙に外してるし、盛り上がりにも欠けますね。ボクも、自分が自転車を熱心に観てた頃の事を思い出して、色々と楽しむ事はできたんですけどね。
元店主
なんでこんな事になったんでしょうね。私が考えるに・・・なるべく事実に忠実にやろうとしてか、エンタメ要素を極力抑えようとしているからではないか、と。後は“ドーピング”という大事なテーマに、踏み込んでない。ドーピングに対する制作者側の立ち位置が曖昧で、中立を装いつつ逃げてる印象なんですね。そこが、なーんか中途半端な感じに繋がっているんではないか、と。
ヤマネ
うーん、でも制作者側の立場は、やっぱ“ドーピングはダメ!”ってものじゃないんですか?
元店主
表面上はね。でも、ちょっと揺れてるというか、ドーピングは悪と決めつけている訳でもないよー、という中立を装った躊躇いがみえる。あるいは、アームストロングは必ずしも悪ではないよー、といったエクスキューズが。そこが、作劇上の弱さに繋がってるんじゃないか。
マツヤマ
どういう事だ?
元店主
えーと、これ、劇中にも出て来たアームストロングと対立するスポーツジャーナリストのデイヴィッド・ウォルシュの著書が原作じゃないですか。ウォルシュはインタビューを読むかぎり、今でもかなりアームストロングを嫌っている様で・・・もうボロカスに言ってる。で、そんな彼の著書が原作な故に、この作品ではアームストロング側の視点や考えが欠落していましたよね。それはいいとしても・・・それならそれで、アームストロングをもっと徹底的に悪として描いて良かったと思うんです。でもアームストロング像が茫洋としている。それが問題だと思うんです。
マツヤマ
でもさ、彼は一貫してヤな奴として描かれていたと思うぞ。
元店主
それはそうなんですが、ヤな奴にはヤな奴としての魅力があるはずじゃないですか。悪人には悪の魅力が。それが映画の主人公なら。それが感じられない。というのは、やはり踏み込みが足りないんではないか、と。
マツヤマ
それと、ドーピングに対する立ち位置の曖昧さとどう関係があるんだ?
元店主
それは、ドーピングは悪!とした立場をはっきりとるなら、もっとアームストロングの悪の魅力が出たと思うんです。それがなーんか中途半端で・・・だから、アームストロングの描き方も中途半端になったのでは。
ヤマネ
やー、それは単に本物のアームストロングが魅力のない奴だったんじゃないですか。面白みに欠ける人間であったのは事実だと思いますし。だから、この映画はそれを単に事実に忠実にやっただけなんじゃないですか。
元店主
うーん、そうなのかなぁ・・・。でも、この映画で描かれているドーピングって、なんか軽いような・・・主テーマにしては。
マツヤマ
ま、他にもドーピングをやってた選手はたくさん居ただろうけど、誰もアームストロングにはなれなかった訳じゃないか。その点だけでも、彼の比類ない精神力、努力、そしてある種の才能は本物なんじゃないの。それを十分に描けていたか、と言えば、それはなかったかもな。
ヤマネ
最高の精神を持った逸材に、完璧なプログラムを施し、最強のアスリートを作り上げる。それはある種のスポーツの極限状態なのではないか?・・・といった問題を投げかけたかったのかもしれないですね。
元店主
そうそう、それなら分かる。でも・・・そうなってる様には見えないんだよなー。私なら・・・ウォルシュの著書を元にするのなら、ドーピングは絶対悪!という立場を貫いて、アームストロングを徹底的に悪人として描き、その事によって悪の魅力を輝かせて、却って観た人に「ドーピングってほんとにダメなの?」と思わせるものを作ると思う。って、作る力があるかどうかは別にして。
マツヤマ
じゃぁ、この問題はこれぐらいにして・・・映像の方はどうだった?オレは崖っぷちにガードレールのない道を自転車で疾走するシーンとか、ハラハラしてなかなか楽しめたよ。
元店主
私は・・・個人的にはあまりグッと来る映像はなかったです。自転車疾走シーンは確かに良かったですが・・・でも、あれならゴダールの『勝手に逃げろ/人生』の自転車疾走シーンの方がずっといい。
ヤマネ
自転車疾走シーンは良かったですよ。でも、長距離レースの魅力は、長い溜めの時間の中での駆け引きにあるんです。その点からいうと、やっぱ本物のレース映像観てる方がずっと面白いですよ。まぁ、観るのも時間かかりますけど。
マツヤマ
なんにせよ、ババさんがこの映画を観たらどう思ったか、が気になる所だな。
ヤマネ
この映画・・・っていうか、アームストロングのドーピング漬けの発覚には、かなりショックを受けたと思いますよ。ババさん、正義感強かったですし。
元店主
映画としてはどうだろ。ババさんもエンタメ大好きだったから、この映画では物足りなく思ったかも。でも、自転車が走るシーンがあったらそれだけでオッケー、って所もあったから、「バチグンのオススメ!」と言ったかもしれないね。
マツヤマ
確実に言えるのは、アームストロングはセレブに知人が多い・・・という話の時に、ロビン・ウイリアムスやクリントンなんかをあげた後、最後に“ボノ”って言ったのには受けただろうな。
ヤマネ
ああ、あそこは映画館に笑いが響いたでしょうねー。・・・かつて“ボノ”ネタが多用された時期があった・・・って訳で、マツヤマさん、8月の課題映画はなんですか?
マツヤマ
おお、8月はだなぁ・・・『シン・ゴジラ』だ!
ヤマネ
わー、出たー、ガオー!・・・では、また!

Comments

投稿者 uno : 2016年07月29日 00:02

こんばんは。
うーん。。。退屈な映画でした。
アームストロングに魅力を感じなかったんですよね。アームストロングの自転車、ドーピング、癌に対する考えが伝わってこなかった。鼎談で元店主さんが言ってる「アームストロング側の視点や考えが欠落」ってほんとその通りだと思います。
この映画を見る限り、アームストロングは結果が全てで、選手はレースで勝てば正義、癌に対しても患者に勇気を与えることが出来れば正義だと思っている、とは思いましたが。
でも、自著のサイン会で癌患者の女性から「勇気をもらった」と言われた時に一瞬何とも言えない表情になる場面はアームストロングの心の中が少しだけ見えたようで良かった。
アームストロングの不屈の努力を感じたのが、癌になる前にフェラーリ医師から「筋肉が付きすぎて身体のバランスが悪い」と門前払いされ、その後、癌で痩せたところから自分の体型を変えてきたところ。ほんの少ししか描かれてませんが、超過酷なトレーニングも行っているはずなんですよ。そういう事の裏側としてドーピングに手を染めた部分が描かれていないのが残念。
一方、プレモンスの方が人間臭く悲しくて魅力的に見えました。プレモンスはすごく信仰心が強いにも関わらずドーピングに対し疑問を抱くのは随分後になってからなんですよね。プレモンスを見ていて、当時の自転車の世界の選手の多くが、みんながやっているから、というよりもドーピングを悪だと認識すらしていなかったのかも知れないなと思いました。

投稿者 オーソン : 2016年07月29日 19:59

印象に残らない映画でした。ドーピングの抜き打ち検査が来た時の回避方法は、現象としては面白いんですが、映像としてはそんなに…という印象で、全編これといった印象が残らない映画でした。ガンから復帰して、ドーピングして優勝するレースシーンはもっと映像的に盛り上がって欲しかったです。ドーピングは駄目かもしれないけど、それをすることで今までにない景色を観ることができた、みたいな。あと、レースのスピード感が感じられなかったのが残念です。レースシーンの盛り上がりがもっとあれば、メリハリがきいたんじゃないかと感じております。何だかノッペリしてるんですよねえ、この映画。
ドーピングしたら凄く速くなった!っていうのを映像的にみせた方が主題がはっきりするんですが…。
あと、アームストロングに魅力を感じなかったです。狂的な側面での魅力というのもなかったし…。フェラーリ医師の方が面白いキャラクターにみえました。
こっちを主役にしたほうが面白そう。

投稿者 元店主 : 2016年07月31日 14:28

うのぴ、オーソンへ

・・・まぁ、そうだよね。印象の薄い、のっぺりした映画だよね、これ。主役のアームストロングに魅力が全くないし。

私はやっぱ、これは作品の視点が定まってないからじゃないかと思う。この映画は、映画にも出て来たスポーツジャーナリストのデビッド・ウォルシュの著書が元になっていると言われているんだけど、確かにそう思わせる。でも、ならウォルシュを主役して撮れば良かったと思うんだ。アームストロングを主役にするなら、もっと他の資料が必要。ウォルシュ側の視点しかないのに、アームストロングを主役に据えたから、あんなのっぺりした印象になったんでは?
むろん、様々な資料にあたったしリサーチもした!と制作側は言うだろうけど、ならそれは全然活かせてない、と言うしかない。完全にウォルシュ側の視点にたってるのに、アームストロング視点で撮るからなんかパッとしない事になったんじゃないかなぁ。

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