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2014年07月28日(Mon)

渇き 強制起訴シリーズ

起訴者: 元店主

強制起訴シリーズ44弾

「下妻物語」で鮮烈な映画監督デビューをし、「告白」でその名を高めた中島哲也監督の新作。アル中で頭の壊れた元警察官(役所広司)の娘が失跡した。娘の行方を追っている内に、人はバンバン死ぬ、怪しい奴らが大量に現れる、娘は一体・・・。「愛した娘はバケモノでした」というキャッチコピーで送る、新感覚派(?)ムービー。

ヤマネ
予想を遥かに下回って、かなーり下らなかったですね。ボクは嫌いです、この映画。語ることなし。終わり!
マツヤマ
おいおい。いきなり終わらせるなよ、冷たいなぁ。オレは、まぁ、ダメな所もかなりあったけど、それなりにいい所もあって、その波が激し過ぎる、といった感じかな。全体としては・・・ま、こんなもんじゃね、といった感じだ。
元店主
私もそんな感じですね。なんか面白くなりそうなんだけど、いっこうにならないし・・・所々では「お!」と思うシーンがあるんだけど、全体としては、なんじゃこりゃ、という。ヤマネくんは、どんな所がダメだったの?
ヤマネ
どんな所って・・・。まず、ボクは暴力的な映画は嫌いなんです。それでも、武の映画や最近の韓国映画の一部には、凄く好きなものはあります。それらは、暴力に必然性があるから、許せる。でも、この映画の暴力には必然性が感じられない。ほら凄いだろー、って言いたくて撮ってるだけに見える。そこが不快なんです。
元店主
確かに、暴力的なシーンは多かったけど、それが?って感じのものばかりだったね。工夫も足りないし。昨今の韓国映画の暴力表現の足下にも及んでない感じ。
マツヤマ
その“必然性”の話でいうと、最初に日産グロリアをこれみよがしに映したり、タバコがわざわざチェリーだったりと、お、そういう映画なのか?と思ったけど、全然そうじゃないだろ?あれ、なんだよ。必然性が無さ過ぎるよ。思いつきで撮ってるのか?
ヤマネ
そうなんですよ!実はボクも始まった時は、期待できるかな?と思ったんです。だってタイトルバックが1970年前後のイタリア映画風だったり、アメリカンニューシネマ風のスプリットスクリーンだったりと、そういう映画なの?なら面白そう!と心が踊ったんですけど・・・始まったら一切そんなことなくて。なんなんだー、あのとってつけた様なオープニング!
元店主
そこだけに限らず、なんか全体的にスタイルのつまみ食い感はあったね。タランティーノ風とか、パク・チャヌク風とか。色んなスタイルをごちゃ混ぜにし過ぎて、かえってスタイルがなくなってしまっている。敢ていうなら、ポストモダン風スタイル、とでもいうか。
ヤマネ
そういえば、高松伸っぽかったですね。
マツヤマ
適当なこと言うなよ!・・・まぁ、一言でいえば、ダサいんだよ、この映画。ファッションで言えば、帽子やシャツや靴やアクセサリーに、最新流行ブランドや古着を混ぜたりして頑張ってるんだけど、なんかチグハグ、みたいな。
ヤマネ
うまいこと言いますね、マツヤマさん。ボクと違って。座布団一枚あげましょうか?
マツヤマ
いらねーよ!そんなしょうもない事でからむなよ。
ヤマネ
うーん、でもマツヤマさんはいいと思う所もあったんですよね、この映画。どこらへんですか?
マツヤマ
そうだな・・・あの役所広司がオダギリジョーの家庭を襲ってから、ビルの屋上でのオダギリジョーとの対決までのシーン。あそこはカッコ良かったよ。
元店主
あそこはよかったですね。クルマで対決場所に向かってる時に、70年代ブラックムービー風の音楽が流れていて、やたらかっこいいんだけど、やっぱ不自然じゃないか?と思ってたら、それはカーラジオからたまたま流れていた曲だった、とか。うまいですよね。それとか、妻夫木くんがクルマに跳ね飛ばされるタイミングとか、絶妙。
ヤマネ
そですね。小手先の技はうまいですよね。
マツヤマ
あとオレがいいと思った点は、登場人物がみんな、ある意味振り切れている点かな。これは園子温と較べて言ってるんだが・・・園子温の映画って、ムチャクチャやってる様で、どこか観客に媚びてるんだよ。そこが気持ち悪いんだけど、この映画はそういった点がない。ひたすら突っ走ってる感がある。そこは良かったかな。
ヤマネ
うーん、でもこの映画の人物造形って、ウソっぽくありません?ボクはなんか、全くリアリティを感じなかったんですが。
マツヤマ
ああ、確かに、役所広司夫妻に呼ばれてファミレスに集まってくるガキどもとか、わざとらしくてウソっぽかったのはその通りだな。今時の壊れてる子供、という偏見にむりやり当てはめてる様な感じはあった。疾走感はあるが、あまりに薄っぺらい、と、そんな感じか?
元店主
本当にあんな子供たちが居るのかどうかは別にして、説得力がなかったのは事実でしょう。要するに、映像で表現できてない。結局、セリフで説明してるんですよ。カナコ(役所広司の娘)が、まぁ、周りを振り回し、破滅に追いやる空虚な中心、とかそんな設定なんでしょうが、ちっともそんな感じがしない。セリフで「自由なの。ルールなんてないの」とか、死ぬ時に「ちょーうけるー」とか言ったりして・・・まぁ、それで説明してる感じです。
ヤマネ
カナコがちっとも描けてなかったですよね。ボクなんか、これは役所広司の妄想で、実際はそんな娘は居ないんじゃないか?とさえ思いましたから。カナコ役の娘は可愛かったですけど。
元店主
役所広司にしても、破壊衝動がある、とか、愛するものを破壊してしまう、とか、破壊が愛情表現、とか、そんな風には全くみえない。たんにアル中で頭の壊れた(分裂病の診断受けてる)男が暴れてるだけにしか見えない。これもまたセリフで「ボクにも夢はありますよ。優しい妻と可愛い娘。幸福な家庭。それを・・・ぶっ壊す!」とか説明してるだけ。なんかこの映画を、歪んだ愛情とかなんとか、そんなキーワ−ドで説明しようとしてる人が居るみたいだけど、そんな人はセリフに騙されてるんですよ。映画が観れてない。映画はそんなこと、ちっとも表現できてません。
マツヤマ
「渇き」というタイトルだけど、渇きというより「苛立ち」だよな、これ。みんな苛立って怒鳴ってるだけ。平板な感じだよ。にしても、なんで「渇き」なんだよ。パク・チャヌクのパクリか?映画の冒頭もラストも、もろパク・チャヌクだっただろ。なんなの、あれ。
ヤマネ
だーかーらー、確かに映像とかちょこちょこカッコいい所はありますけど、どれもこれもどこかで観たことある様なもんばっかなんですよ。ストーリーにしても、なーんかどこかで聞いた事のある様な感じでしょ?ちっとも衝撃的でも、エキサイティングでもない。オリジナリティが無さ過ぎるんです。結論、こんな映画を観るのは時間の無駄です!
マツヤマ
おいおい、よっぽど嫌いだったんだな、この映画。しかし、オレとしては、こんなゴミだらけの邦画界で、なんとか挑戦的なものを作ろうとしている意志だけは買ってやりたい様な気はするんだ。失敗してるけど。
ヤマネ
むむー、もしかしてマツヤマさんは中村哲也監督が好きなんですか?
マツヤマ
んな訳ないだろ!どっちかと言うと嫌いだよ!・・・というのも理由があってだな・・・。この映画のHPに行ったら、監督の直筆の文章が載ってるんだよ。「僕が初めてどうしても撮りたいと思った映画です」みたいな事が書いてあって、「父と娘の愛憎の話です」みたいな説明が載ってるんだよ。
元店主
いや、全く“父と娘の愛憎の映画”じゃないですよ。監督は、自分が何を撮ったかも分かってないですね。
マツヤマ
だろ?そもそも自分の作品を説明する時点で表現者として失格だと思うが、それよりこの言い訳めいた文章。なんかお笑い芸人が勘違いして映画もどきを撮った時に言いがちな戯言にそっくりなんだよ。こんな文章書く奴は信用できないよ。
ヤマネ
やっぱり、ただの金儲けなんじゃないですか?とにかく話題になって売れればいい、と。だからカッコ良さそうなものは何でもパクるし、煽るし、もー、自由なの、ルールなんてないの、お金さえ儲かれば、って事でしょ。それを誤摩化すために、“愛”だの“憎しみ”だの“本当に撮りたかった”だの言ってるんですよ。不真面目すぎる!
元店主
ははは、私は不真面目でも面白い作品を撮ってくれたらそれでいいんだけど、なんとも中途半端な作品だったからね。役者が頑張ってる分、残念感が強かった。次回作に期待・・・しますか?
ヤマネ
いえ、次回はありません。さよーならー・・・で、来月の起訴作品はなんですか?
マツヤマ
おう、「ゴジラ」だ。
ヤマネ
おろ?えらく普通のセレクトですね。強制起訴っぽくないのでは?
マツヤマ
「仮面ライダー鎧武」でもいいぞ。「幕末高校生」とか・・・。
ヤマネ
いえいえ!「ゴジラ」で結構です!では、また来月ー。ガオー。

Comments

投稿者 オーソン : 2014年08月01日 21:26

 僕はこの映画、ダメだと思いました。色々と手の込んだ「スタイリッシュ」な映像をつくろうとしてるんだと思うんですが、起伏がなく全てが過剰すぎて、逆にフラットな印象を受けます。なので、物語の中でどんな事が起こっても「あっ、そう」という気持ちにしかなれなかったです。
 あと、中島監督の映画って、どうしても好きになれないです。暴力描写が嫌いな訳でもないですし、露悪的な物語が苦手な訳でもないんですが、とにかく苦手です。僕は、今までこの監督の映画からは、登場人物もしくは映画そのものに対する愛を一切感じられなかったです。なのに、この監督のほとんどの作品を観てしまってます…(汗)

投稿者 元店主 : 2014年08月02日 01:44

オーソンへ

なるほど。では、オーソンが「登場人物もしくは映画そのものに対する愛」を感じる監督or作品ってなに?よければ教えてください。
それによって何かがみえてくるかも。オーソンの抑圧された中島監督愛とか・・・。

投稿者 オーソン : 2014年08月02日 20:01

いやいや、中島監督に対する愛は一片もないですよ!(汗)よく話題になる監督ですから、一応観ておかないといけないなあという義務感からです…多分。
映画・登場人物に対する愛を感じる監督はジョン・ウォーターズです。特に『ダーティ・シェイム』がいいですね。あとタランティーノは当然だとして、ジョン・カーペンターの作品からも愛を感じます。
作品では『ミルク』や『息もできない』とかです。まあ、この2つは当然、登場人物に対する愛情が強い作品になりますが…。

投稿者 uno : 2014年08月03日 14:52

こんにちは。
この映画を見た後、どっと疲れて気持ち悪くなりました。
最初の方でコンビニ殺人の場所がさいたま市北区(映画中のテレビのテロップによる)ってあって、そこに八年住んだ私は、少しは期待したんですが。

グッときたのは、駐車場屋上でオダギリジョーを睨みつけるオダギリ妻の目!あの目には痺れました。駐車場屋上でのやり取りは面白かった。妻夫木が跳ね飛ばされるシーンには思わず声を上げて笑った。

監督は「父と娘の愛憎の話」って言ってるんですか。。。
思い返すとそう思えないわけでもない場面がいくつか。
まず父親。
部屋で娘(加奈子)の覚醒剤を見つけた時に元嫁から「あなたいま笑ったでしょ」って言われた場面が印象に残っています。でも、それを後に全く描けてない。
で、妄想的に思い出す住宅会社のCM。
作品中何度か出てきましたが、ステレオタイプな理想的家族への憧れ?そうできなかった後悔?それも分からない。
次に娘、加奈子。
まず、あれだけ遣り手の加奈子が自宅に覚醒剤を普通に置いておくとは思えない。助けを求めて何か痕跡を残したかったのか。
次に加奈子は精神科で医師に対し父親のことを話している。おそらく、父親にキスをし、首を絞められたことを話した。これも誰かに父親の事を言いたかったのかな、とも思える。それとも精神科医をただ誘う為だったのかな、とも思える。
それと、ホテルの部屋が加奈子の部屋を完全に再現している。これも家庭(父親?)に対する倒錯した思いなのかな、とも思える。ただの性癖とも思える。

でも結局のところ分からないんですよ。観客に解釈を委ねるって事でもなく、ただ監督が人物を描けていない。「父と娘の愛憎の話」を描きたかったのかもしれないけどできていない。

そしてエンディングでは雪山で教師に加奈子の死体を執拗に探させる。原作がそうだったのでしょうが、映画を見るとその映像を撮りたかっただけとしか思えない。

今回は何を書いてよいのやらと困りました。結局、この作品が何を表現したかったのかが未だに分かりません!

投稿者 元店主 : 2014年08月07日 03:01

オーソンへ

ふーむ、どうやらオーソンはインディペンデントな作品に愛を感じる様だね。ま、そらそうだ。中島監督はCM出身だからねぇ。
オーソンは映画青年っぽいな。

うのぴへ

この作品、何が表現したかったのか分からなくて正解だと思うよ。だって、失敗してるもの、色々な点で。
例えばこの映画、全体の構図として、父(主人公)が失跡した娘を探す−その過程で知られざる娘の秘密、ひいては父(主人公)と娘の秘密が明かされる、というものになっている。それなのに、娘は登場した最初から最初まで同じ、つまり謎のまんま、だし。主人公も最初から最後まで同じ、つまり壊れっぱなし、なんだ。これ、完全に失敗でしょう。
この構図なら、娘は最初と最後で違った相貌を見せないとダメだし、主人公も秘密が開示されていくと共に、だんだん壊れていかないとダメ。少なくともこれがオーソドックスな演出で、むろん他のエキセントリックな演出をしても構わないんだけど、それならそれで構図を生かさないとダメでしょう。この映画では、自ら選んだ構図を殺してるだけ。つまりは失敗。
「告白」では、多少トホホな所はあるとはいえ、構図はうまく生かせてたんだけどなぁ。

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