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2009年04月25日(Sat)

「レイチェルの結婚」 ☆☆☆☆★★★

Text by Matsuyama

バックマン家には結婚式の制作、そして参列のため沢山の友人知人が集まって来ているのですが、彼等はけっしてバックマン家と同じ白人ばかりではありません。レイチェルの婚約者シドニーは黒人で、継母(アンナ・ディーヴァー・スミス)は先住民系? さらにアジア系の友人やレゲェ、サンバ、中東ジプシー系ミュージシャンetc…。料理と装飾はインドでビールはレッドストライプfromジャマイカ。
監督のジョナサン・デミはここに多様な人種や文化と薬物依存、更生施設、離婚などを描くことによって現代のアメリカが抱えている現実を描いたのかもしれないし、そうすれば、レイチェルが黒人の婚約者シドニーとの間に身ごもった子供は男の子(?)なのかもしれない…と、いつものように深読みする要素はいくらでもあるのですが、それよりもなによりも多様な人種がここに何のために集まって来ているのかが重要なのであります。

バックマン家の長女レイチェルのため手づくりの結婚式を行なおうと、広い庭を有した自宅には友人たちが集まり、和やかに式の準備が行なわれているときに、次女のキム(アン・ハサウェイ)が薬物中毒の治療施設から一時退院して帰って来ます。
お祝いムード 一色の雰囲気に入り込んだひとつのタブーによって、いちばん神経過敏になっているのはキム本人であって、周囲の人たちの思いは結婚式を成功させることだけです。その温度差がキムをさらに空回りさせ、観客としての私はいつしかバックマン家に招待された一人の客(の気分)となって「オイオイ主役はキミじゃないから…」などと思いながらも、実は“空回り経験豊富”な自分のことを棚から卸して悔いてしまっていたのでした。

さて、結婚式までの3日間だけを描いたこの作品の中で、バックマン家が抱えている辛い過去が徐々に明らかになります。同時に、そこに集う人たちの想いも単にレイチェルとシドニーを祝うためだけに来ているのではないことも分かってくるのです。
過去の悲劇とはキムの薬物中毒が原因で起こった事件で、幼かった弟、イーサンを事故死させてしまったという事実です。
ドラマの中で時折顔を出すたび家族に悲しい影を落とす「イーサン」という名前。それとは対照的なお祝いムード満載の友人たちの存在。彼等はマナーとして慶事を優先しているのではなく、事件後のバックマン家に初めて訪れる幸福によって、家族が苦しみ悲しみから早く抜け出して欲しいという深い想いだったのだということが分かってくるのです。

バックマン家に来ている友人たちにしても傷ついた経験がない者はいないだろうし、悩みや苦しみを抱えたまま来ている者がいてもおかしくはありません。
様々な人種や文化が集まって、手作りの結婚式を行なうことの意味する、この作品に込められたメッセージをアメリカの現実という括りだけで語るにはあまりにももったいなく、あまりにもベタな考えではありますが、世界がこの3日間のバックマン家のようであったなら、なんてガラにもなく思ったりしたりして…

ハンディカム撮影と自然な音声で作られたホームビデオ風のこの作品。観る者はいつのまにかパーティの一員となって、徐々に見知らぬ客たちと打ち解けていくような、かつて海外旅行か何かで味わったことがあるような懐かしさを感じ、エンドロールまでがライブ録音だと知ったとき思わず拍手を送りたくなりました。思い出すたび目頭が熱くなるような、今年上半期の上位に位置するオススメ作品となりました。

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