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2005年12月02日(Fri)

フォー・ブラザース/狼たちの誓い ☆☆☆☆★

Text by BABA

 許せない! 奴らを葬るため男たちはストリートに舞い戻った。ババーン! まるでマカロニウェスタンのような宣伝文句、最高にカッコいいのでもう一回言います。許せない! 奴らを葬るため男たちはストリートに舞い戻った。ババーン!

 サミュエル・L・ジャクソン版『シャフト』、『ワイルド・スピードX2』などのジョン・シングルトン監督の最新作は、最高にスーパークールな傑作でありました。

 まずオープニングからして最高です。カーステレオからは『サムバディ・トゥ・ラヴ〜あなただけを』が流れている。ご存知ジェファーソン・エアプレインのヒット曲、老年にさしかかった中年女性は車を停め、コンビニの中へ。そこへもう一台の車が不気味に停車する…。

 唐突にカットが変わるや、くだんの中年女性は一人の黒人少年に「万引きしたら、あかんで!」と説教しております。この、話の省略具合がバチグンです。近ごろノラリクラリとシーンを引き延ばしがちの映画(『春の雪』とか)を見た後では、「これこれ、こうじゃなくっちゃ! 黒澤明が言うように『映画』とは、カットとカットの間に存在するのである!」と大声で叫んでしまいました。心の中で。

 そして、彼女は「あなたがグッドボーイなのを私は信じるわ。あなたはあなた自身を信じる?」と問い、少年は「信じるよ!」と晴れやかに改心、「夜に出歩いちゃダメダメ!」との忠告に従い走り去る少年……映画が始まって5分というのにツカミはバッチリ、ていうか、私、いきなり泣いてるし。涙腺がゆるいにもほどがある!

 そしてそこへ押し込み強盗あらわれ、レジの兄ちゃんは射殺され、そして中年女性も…。

 シーン変わって今度はカーステレオからマーヴィン・ゲイの曲が流れます。なんだなんだこの素晴らしさは!! やがて我々は、映画の舞台が「モータウン」=デトロイトであることを知る。ジョン・シングルトン監督の音楽の使い方のうまさに、圧倒された私なのでした。

 車には、中年女性イヴリンの葬式にかけつける長男マーク・ウォールバーグ、次男アンドレ・ベンジャミン、三男タイリース・ギブソン、末っ子ギャレット・ヘドランド、張り込み中の刑事によって手際よく兄弟が紹介される脚本がお見事、さらに、例えば次男アンドレの前歴が思わぬ伏線となっているなど、私の予想を軽々と越えていくストーリー展開が素晴らしいです。

 さらにトンチが散りばめられているのもグッジョブ。例えば、長男マークが高校バスケの試合に乗り込み、「犯人捜しを手伝ってくれ!」と少し頭のおかしい人を演じて、手がかりをいぶしだすシーン、兄弟のチームプレイが鮮やか。

 また、暗いリアリズムが顔をのぞかせるのも良い。兄弟は「殺し屋」を見つけ出しますが、ためらわずにいきなり殺してしまう! …普通、「依頼人は誰か」とか、軽く拷問などするところですが、なぜいきなり殺すかというと、「奴らはプロの殺し屋だ。依頼人の名前を吐くわけがない」。…素晴らしい。

 そういう、犯罪ミステリー+アクションの側面だけでなく、四兄弟はじめ脇役までキャラがビンビン立って、人間ドラマとしても見応えアリ。兄弟は感謝祭の日に七面鳥を焼き、母親が不在のテーブルで食事をする。兄弟それぞれに、母の席に目をやり、茫然と母を思い浮かべる……安田大サーカスならずとも「ベタベッタ!」と踊り出したくなるベタさですが、これまたボロ泣きですよ私。

 また、セリフもよいです。

長男マーク「海兵隊なんて、女っ気なしでよく我慢できるな!」

三男タイリース「最近は、女の兵隊もいるんだぜ」

長男マーク「どうせ、男みたいなゴツイ女ばっかりだろ?」

三男タイリース「半年間はな!」

 以上、今週の“お楽しみはこれからだ”でした。

 閑話休題。ジョン・シングルトン監督の作品には、常々社会批判がこめられてますが、この復讐譚もまた、社会派の物語となっております。9.11の「報復」戦争と称し、いいがかりをつけてイラクやアフガンを攻撃したアメリカに対して、ここには正義の復讐がある。

 母イヴリンは「天使」、一個の完全なる「善」であります。ウッドストックに行ったことがあって、いまだにジェファーソン・エアプレインを聞くイヴリンは、「生涯フラワー・チルドレン」「一生サマー・オブ・ラヴ」、善なるアメリカ、人種を越えて手をたずさえロック革命を闘った戦士なのですね。

 その善なるイヴリンが殺されたとき、白人と黒人は、70年代のようにがっしり協力しあって悪に立ち向かいます。「仇討ちなどアホらしく益なきこと」という見方はここでは間違っている。「悪」は成敗されねばならない、司直が腐りきっているなら自らの手で正義をおこなわなければならない。

 ラストシーンは、何かを象徴しています。壊された母の家を、兄弟が修復している。そのはるか彼方にはデトロイトの巨大ビル群が見える…。現在のアメリカ=巨大ビル群から遠く離れたところで、母の家=アメリカの理想を修復しようではないか! そんなことをこの映画の作者は呼びかけているのかも知れませんね。よくわかりません。

 ともかく、ドン・シーゲル風の犯罪アクション、『シャフト』も70年代テイストぷんぷんで素晴らしかったですが、今回のジョン・シングルトンは冴えに冴えまくって最高。私は「お気に入り監督リスト」に、「ジョン・シングルトン」の名をクッキリと刻み込んだのでした。バチグンのオススメ。

公式サイト
http://www.fb-movie.jp/top.html

☆☆☆☆★(☆= 20 点・★= 5 点)

Comments

投稿者 kuroblack : 2005年12月10日 12:10

こんにちはー。
今日ようやく見に行く手はずが整ったのですが、
大阪も神戸も上映が終わってました!
『ハリポタ』『SAYURI』…!

投稿者 BABA : 2005年12月11日 14:13

> kuroblackさん

書き込みありがとうございます!
…それは! めちゃめちゃ残念です!!

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