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2005年11月29日(Tue)

イン・ハー・シューズ ☆☆☆★★★

Text by BABA

 私たちは何度もすりむいて、自分だけの“靴”をみつける。ババーン! 

 僭越ながら、宣伝文句にケチをつけます。『イン・ハー・シューズ』…「in her shoes」は、「彼女の立場に立って」「彼女の気持ちをおもんばかって」みたいな意味の慣用句だそうで、姉と妹お互いが、相手の立場に立って考えることができるようになるまで、強いていうなら「人の靴を、うまく履けるようになる」までのお話ですので、「自分だけの“靴”をみつける」というのは、的はずれではないか? 「自分の“靴”を見つける」ならわからんでもないのじゃがのぉ。

 そんなことはどうでもよくて、カーティス・ハンソン、いわずと知れた名作『LAコンフィデンシャル』の脚本・監督、その後も『ワンダーボーイ』『8 Mile』と佳作を連発、なんといっても明解・明晰、オーソドックス、手堅い教科書的な演出は「平凡」「凡庸」といってもよいくらいですが、片や、例えば『ドミノ』のようにガチャガチャした映画が存在するアメリカ映画界にあって、この平凡さ・凡庸さこそが素晴らしく非凡、クレヴァーである、と、思うわけです。

 …ていうか、この『イン・ハー・シューズ』、「Scott Free」の製作、リドリー & トニー・スコット兄弟も製作に関わってまして、はて、スコット兄弟は、カーティス・ハンソンのガチガチの鉄板演出をいったいどのように見ているのでしょうかね?

 スコット兄弟のこともどうでもよくて、キャラクターの感情の流れを重視しまくる手堅い演出、ふと、我に帰ると、すっかり妹マギー(キャメロン・ディアス)あるいは姉ローズ(トニー・コレット)に深く感情移入している自分に驚かれぬる。「カッコいい、目を引くような演出、アッと驚くカメラワーク、美しい映像」が存在しない映画とは、安心してキャラクターに感情移入できるものですなぁ、いまどき、オアシスのような映画ですね、と腹の中で私語しました。

 そして、キャラクターたちの感情の流れこそが、この映画の最大の見どころです。

 ナイスバディのダメ妹マギー、これまで勉強できなくたって、皆にちやほやされ、うまく立ち回って来たのでしょう。ネタバレですが、彼女は、文字が満足に読めない「難読症」なのであった。

 そんな彼女、祖母が経営する老人ホームで介護のアルバイト。盲目の寝たきり老人——元大学教授——から、「キミは難読症だね?」と正面から指摘されます。そしてそれでも盲目の老教授は、マギーに「詩を読んでくれ」と依頼する。マギーは、つっかえつっかえ詩を朗読し終えて老教授は、「そのセンテンスの意味は?」などと問い、マギーは一生懸命に答え、老教授は「Perfect!」と賞賛する。

 その瞬間の、嬉しいような、とまどうようなマギーの表情に、私は、茫然と感動、涙したのでした。「生まれて初めて、容姿以外のことで誉められてしまった! 自分にこんなことが起こるなんて!」…みたいな感情を見事に表現、ここのキャメロン・ディアスは最高ですね。

 この『イン・ハー・シューズ』のキャメロン・ディアス、『めぐり逢う時間たち』ニコール・キッドマン、『モンスター』シャーリズ・セロンほどではないですけど、「美人女優がメイクダウンして演技派に挑戦」みたいな雰囲気があって、「生まれて初めて、勉強で誉められた!」マギーと、「初めて、微妙な演技力を要求された!」キャメロン・ディアスの感情が見事に一致した、と言えましょう。か?

 一方、堅実な姉ローズは、ずっと「賢いお姉ちゃん」を演じ続けていたのでしょうが、ある出来事がきっかけで弁護士事務所を退職。「もちっと、のんびりできる仕事は…」と選んだのは、なんと「犬の散歩人」!! 

 上等そうなワンちゃん5〜6匹に引っ張られて登る階段は、そう、『ロッキー』が駆け上がったフィラデルフィア美術館! 一気に駆け上がって、「イエッス!!」とガッツポーズをとるトニー・コレットに、私はまたも涙したのでした。

 姉妹は祖母シャーリー・マクレーンと再会、ギクシャクしていた家族が、それぞれに「イン・ハー・シューズ」の精神を学び、アホみたいに幸福な大団円を迎えます。よくある「こわれた家族の再生」物語ですけれど、感情の流れがじっくり、的確に描かれ、素晴らしく感動的なラストとなっております。てか、詩を読むキャメロン・ディアスにボロ泣ける!! 

 また、セリフもいちいち気が利いております。

 マギーは老人ホームで、お婆ちゃんたちのファッション・コンサルタント業を始めますが、マギー、最初の依頼を受けたお婆ちゃんに聞きます。

マギー「今までで、いちばん好きだった服は?」

お婆ちゃん「新婚旅行のときの服よ! 気分はまるでジャッキー・ケネディだったわ!」

 マギーは彼女に似合う服をあつらえ、お婆ちゃんは大喜び。

マギー「どう? 気に入ってもらえた? ジャッキー・ケネディの気分?」

お婆ちゃん「とんでもない!!! まるで、ジャッキー・オナシスよ!!」

 …以上、“お楽しみはこれからだ”でした。

 ともかく、天真爛漫・明朗快活・脳天気なキャメロン・ディアスもいいけれど、陰影のある彼女も素晴らしい! このように俳優の新しい面を見せてくれるカーティス・ハンソン、私にとっては現在、最高に信頼できるアメリカ人監督なのでありました。バチグンのオススメです。

☆☆☆★★★(☆= 20 点・★= 5 点)

Comments

投稿者 miumiu : 2005年11月30日 08:31

こんにちは!
女性映画のような宣伝されてるので観客層が限定されそうで残念です。家族と人生についての映画なのに。
2時間強あると思えないほどテンポ良くてあっという間でした。個々の場面を無駄に引っ張らない手際の良さに「さすがハンソン!素晴らしい!」と1人ごちたのでした(ババさん風)。
オナシスお婆ちゃんの台詞でキャメロンの水着見て「切手ほどの面積しかないよ」っていうのも笑えました。
「キャメロンの肌汚い」という声を結構見かけて、あれ役作りじゃないの?と思ったんですがどうなんでしょう??

投稿者 baba : 2005年11月30日 15:08

>miumiuさん
私も、この映画の宣伝は、偉大な作品をずいぶん矮小化というか、卑小なものにしてしまっているのでは…と危惧しております。
でも、そんなことはどうでもよくて、私も「さすがハンソン!」と腹の中で私語しました。

>「キャメロンの肌汚い」
私もメイクダウンしていると思うのですけど、真相やいかに!

投稿者 miumiu : 2005年12月01日 20:01

ローズが嘆くほど不細工に見えないのと、サイモンが寿司屋で醤油にワサビ溶きまくってるのだけがちょっとアレでしたけど、あとは最高ですね!>脚本のスザンナ・グラントって「エリン・ブロコビッチ」も書いた人なんですね!納得。
トニ・コレットって「シックス・センス」「めぐりあう時間たち」「アバウト・ア・ボーイ」と毎回印象違ってホント感心します。

手前味噌で恐縮ですが私も自分の結婚式の時、清水ジャンプの心境でジミー・チュウの白い靴(56,000円!)買いましたので(>結局それ以来履いてません・・・怖くて)ヒール折られてブチ切れるローズの気持ちはかなり理解出来ます。

投稿者 baba : 2005年12月05日 17:31

★miumiuさん
> ジミー・チュウの白い靴

なるほど! ジミー・チュウの靴を買ってから見れば、『インハーシューズ』に56,000倍感情移入できる! と。
それはともかく、スザンナ・グラントとトニ・コレットの今後に注目ですね!

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