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2011年10月10日(Mon)

監督失格 映画

TOHOシネマ二条にて、「監督失格」平野勝之監督を観てきましたー。
これはAV監督である平野勝之が、一時期恋人関係にあったAV女優の林由美香を撮ったドキュメンタリーです。林由美香を撮った・・・と言ひましたが、自分と林由美香の関係、自分における林由美香、を扱った作品なので、実は平野勝之自身を撮ったドキュメンタリーともいへるでせう。
故に題名は「監督失格」な訳です。

私は平野勝之にせよ、林由美香にせよ、名前は知ってゐましたが、観るのは初めてです。普段、AVとかピンク映画とか観ないもんで。でも、そんな私でも名前を知ってるくらゐだから、この二人が相当の有名人であったのは間違ひないでせう。特に林由美香は、柳下毅一郎が「最後の映画女優」といったくらゐで、多少なりとも映画に興味のある人なら、名前ぐらゐは必ず知ってゐる人です。
一方、平野勝之は自主制作映画時代に天才と賞された神童で、その後なぜかAVへ転身。そこでの初監督作品の主演が林由美香で、一気に恋に落ちるんだけれどその時は相手にされず、何年か後にその恋が実って、その幸せの絶頂期に「由美香」といふ傑作(らしい)を撮ったものの、その直後に別れてしまふ(振られたらしい)。それでも以降、良き友として付き合ひ続け、彼女の35歳の誕生日の前日に、AV撮影の仕事で彼女の部屋を訪れたものの入れず、翌日になっても連絡がつかないので変だと思ってお母さんに来て貰って部屋の鍵をあけ、中に入って彼女の死体を発見する・・・。といふ因縁を持った人です。
それ以来、全く映画が撮れなくなり、廃人の様になってゐた平野勝之が、そんな自分の状態にケリをつけるために、何年か振りで作った作品がこの「監督失格」といふ次第。(正確には、周りが見るに見かねて半ば無理矢理撮らせた様子。ケリつけさせるためにね)
だからやっぱこの映画は、映ってゐるのがほとんど林由美香だったとしても、平野勝之を描いた映画なのです。なんだけれど、やっぱ私としては林由美香ばかりが印象に残ってしまふ。彼女の魅力が横溢してゐて、彼女の映像のみが頭を占めてしまふ。これこそ、映像の持つ力でせう。故に、二人の肝心な瞬間を映像に残さなかった平野勝之は、林由美香に「監督失格だね」と宣告されるのです。林由美香は圧倒的に正しい。

さて、この映画のクライマックスのひとつに、林由美香の死体を発見する所があります。その時になんと、平野勝之はビデオカメラを持ってゐた・・・。林由美香を撮影するために、彼女の部屋を訪ねたところだったからですが、なんといふ偶然!まるで林由美香に「撮れ」と言はれてゐる様だった、と後に平野勝之は語ってゐます。
しかし!・・・平野勝之は撮りませんでした。これがドキュメンタリー作家なら、完全に「失格」でせう(フレデリック・ワイズマンなら撮ったな)。しかし、別にドキュメンタリー作家でもない、映画監督としてはどうでせうか。
とても撮る気持ちになれなかった、といふ事もあるでせう。撮ることは冒涜だ、といふ考へもあるでせう。また、そもそもそんなもの撮ってゐたら、この作品を発表する事もできなっかたかも、といふ事もあるかもしれません。が、結局は林由美香に負けたのだ、と私には思へます。映画監督としては、主演女優に負けたのです。この映画は、そもそもの始めから、映画監督が主演女優に負け続ける映画です。だから「監督失格」であり、主演女優の林由美香のみが輝き続けるのです。

やはりこれは林由美香の映画なのかもしれません。

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