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2007年05月21日(Mon)

楽日/幽閉者 映画

 みなみ会館に、『楽日』ツァイ・ミンリャン監督と、『幽閉者(テロリスト)』足立正生監督を、観に行きました。

 まづは『楽日』。これは強力でしたね。ツァイ・ミンリャンといへば、傑作として語り継がれる『青春神話』も『愛情萬歳』も観てゐない愚かな私ですが、辛うじて『河』だけは観てゐます。『河』は、不自然なまでに長いショット、首が曲がるといふ訳の分からない病気、その病気を直すべく東奔西走する主人公とその父親、その二人が、なぜかそれぞれゲイのハッテン場に行つて性交の場で遭遇する…といふあまりに唐突な展開に、大きな衝撃を受けたものでした。では『楽日』は?

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 これはある映画館の最後の日を描いてゐます。客足が遠のき、ボロボロになつて本日で閉館する映画館。外は雨が降り、中は暗くジメジメして、ウラ寂れた雰囲気です。掛かつてゐるのはキン・フーの武侠映画。客はほとんど居ません。受付の女の子は足が悪く、ぎこちなく歩きます。そんな中、一人の日本人がやつてきました。彼は映画の観やすい場所を探してか、広い映画館の客席を色々と移動します。そのうち、彼の隣の席に一人のをじさんがやつて来て座ります。そしてモゾモゾと…ッて、やつぱりそんな展開かい!

 …あ、いやいや、それだけではありませんよ、勿論。本来いかがはしい場所であつた映画館の魅力を、哀惜を込めて描き切つた作品です。カンヌでは感動のあまり泣き出した人までゐたさうです。ハリウッド映画の様に見終はつて「あー、面白かつた」で、スッキリして終はり、といふ映画ではなく、いつまでも心に深い刻印を残す映画。映画のいかがはしさを愛する全ての人は必見でせうね。

 次は『幽閉者(テロリスト)』。んー、これはどうなんでせうねー。確かに、様々な意味で面白かつたのは事実です。ただ、それは監督があの足立正生であり、その彼が岡本公三の映画を撮つた、といふ、そして出演者にカウンターカルチャーの残党連が大挙して出てゐる、といふ、なんといふか映画外の要素が大きいのであつて……などと、ウジウジ考へる必要はないんでせうね。なんと言つても足立正生は『赤軍ーPFLP・世界戦争宣言』といふバリバリのプロパガンダ映画を撮つてゐるほどで、映画が映画としてそれだけで面白い必要はない! と、考へてゐる人でせうから。

 この映画も、当然彼の闘争の一環なのでせう。映画は、そのための一手段に過ぎない、といふ訳でせう。とはいへ、それなら果たしてこの彼の闘争がどれほど成功してゐるかといふと…、私は些か懐疑的にならざるを得ません。その理由を簡単に幾つか述べてみませう。

 まづ、あのリッダ闘争に関する総括が不十分に思へることです。確かにこの主人公の名前は岡本公三ではなく“M”ですし、忠実に現実の物語をなぞつてゐる訳ではありません。とはいへ、やはり我々としてはこれはあの岡本公三の話だ、と思はざるを得ませんし、あの事件に対して足立正生がどの様な総括をしたのか、と考へながら観てしまひます。すると、どうにも曖昧で、不徹底な感じがしてしまふ。

 また、幽閉中に苦しみに苦しみを重ね、悩み、考へ続けたMが出した結論が、自殺、といふのも、どうにもナルシスティックな感じがして、違和感がありました。足立正生は、この映画で一貫してノスタルジーを排除しようとしてゐて、その点には凄く感心してゐただけに、この違和感は強かつた。その後に続く展開も…。

 あとは音楽ですね。大友良英やジム・オルークそれ自身が悪い訳ではないのですが、取り合はせがねェ。どうにもダサイ。といふか、すでに時代に負けてゐる感がします。辛いなァ。

『十三月』はどうなるのでせうか。

 にしても、みなみ会館のラインナップはいつもながら恐ろしいですね。

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