京都三条 カフェ・オパール Cafe Opal:Home

Home > レビュー >

サブメニュー

検索


月別の過去記事


2014年02月25日(Tue)

「新しき世界」 []

Text by Matsuyama

複数の組織が統合して企業化した犯罪組織、ゴールド・ムーンの会長が謎めいた事故で急死。新会長の座を巡って、組織の実質No.2のチョン・チョンとNo.3のイ・ジュングの覇権争いが勃発した。

監督・脚本のパク・フンジョンは「悪魔を見た」の脚本家だけあって、苛烈な拷問シーンからこの映画は始まる。極めてクールでストイックな映像美を作り出す撮影監督はパク・チャヌクの右腕チョン・ジョンフン。とくに閉ざされたエレベーター内で1人 VS 複数の乱闘を真上から撮ったシーンは後から思い出して「まるで万華鏡のようだった」と、ついつい美化したくもなる名場面だと思う。
キャストでピカイチなのは、華僑閥の幹部チョン・チョンの、絵に描いたような傍若無人ぶりを見事に演じたファン・ジョンミン。そしてチョン・チョンから右腕として可愛がられる物静かな主人公イ・ジャソンには、甘いマスクのイ・ジョンジェが好演。
チョン・チョンを兄のように慕うジャソンもまた華僑系韓国人。しかし、ジャソンの正体は組織壊滅のため8年前に送り込まれた潜入捜査官ということで、どこのマヌケが考えたのかは知らないが、この映画の「『インファナル・アフェア』+『ゴッドファーザー』」という安っぽいキャッチフレーズが邪魔でしょうがない。

華僑という出自に目を付け、ジャソンを組織に送り込んだ警察庁捜査課のカン課長をチェ・ミンシクが演じている。カン課長は計画遂行のためなら、部下を裏切りかねない非情上司だが、チェ・ミンシクは何故かラストに惨殺される役がよく似合う。
会長の死によって、終わるはずだった潜入捜査を続行し、新たな展開を目論むカン課長が名付けた計画が「新世界プロジェクト」だ。
では、原題でもある「新世界 = NEW WORLD」とは何を意味するのか?
マフィア潜入モノのクライムサスペンスとして充分に堪能できる傑作であることは間違いないのだが、もう少し視点を変えれば、さらに面白い見方が出来るのではないだろうか。

さて、カン課長の目論見とは、会長の椅子に傀儡を据え、組織を警察のコントロール下に置くこと、すなわちそれが「新世界」なのだが、ジャソンはあくまでも、その新会長を支える副会長にするという計画だった。しかし例によってラストのミンシク君の見事な死にっぷりが待っているということで、結果はそうはならない。

ミクロな視点で観るなら、この映画はチョン・チョンとジャソンによって8年間で築きあげられた愛の物語でもあるのだ。下品でハチャメチャな兄貴分チョン・チョンに対し、ジャソンはいつも懐かしいものでも見るような温かい眼差しを送っているのが微笑ましい。一方チョン・チョンは、裏切り者に対しては非常に残忍という一面があるが、しかしジャソンに限っては、たとえ潜入捜査官と知ったとしても目を瞑る。乱闘によって危篤状態となったチョンチョンは、人生の岐路に立たされたジャソンに、華僑として差別されたままの単なる警察の犬ではなく、もっと強く生きられる道を選ぶよう諭し、病床で息を引き取るところで、ここで2人の愛が結実したのだとオレは涙ぐんでしまった。

ではマクロ視点で見るとどうかというと、偽ブランド好きのチョン・チョンは、まるで日本に伝わって来るステレオタイプの中国人を体現しているかのようだ。世界経済の覇者として、中国が台頭するのも時間の問題だと思うが、そうなる過程で、下品、残忍、偽物文化のイメージ(あくまでも表面的な)は払拭しなければなるまい。そしてその中国のNEW STYLEこそ他でもないイ・ジャソンなのだ。クドいようだが世界経済で中国が台頭する世界こそ、この映画のタイトル「NEW WORLD」なのである。ギリギリの線でネタバレはしていないと思うが・・・

Comments

コメントしてください





※迷惑コメント防止のため、日本語全角の句読点(、。)、ひらがなを加えてください。お手数をおかけします。


※投稿ボタンの二度押しにご注意ください(少し、時間がかかります)。



ページトップ