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2013年08月15日(Thu)

「ハナ 奇跡の46日間」 []

Text by Matsuyama

1991年に千葉県で開催された世界卓球選手権大会に、南北統一チーム「コリア」で参加し、世界最強の中国チームを破って女子チームが団体戦で優勝を果たしたという実話に、フィクションを交えて映画化した作品だ。

千葉で対面した両チームの選手たちは、文化や価値観の違いからギクシャクするが、試合期間の46日間に、様々な葛藤を乗り越え、心をひとつにしていくというストーリー。その背景には分断、そして統一への悲願という民族間の問題があることで「スポ根映画」というよりは、すでに韓国映画のジャンルとして確立されている「南北もの」と言うべきか。党から覇権された冷血極まりない監視役の存在(実際には選手より格下の警護係)など、ややステレオタイプの北朝鮮のイメージや、最強というだけでなぜか中国選手が悪役に仕立て上げられていることから、やや偏っているとの声もあるが、客観的に見れば、韓国選手がアメリカナイズされ、自由気ままでデリカシーのない描写になっていることで相殺されいるとも思える。そんなことも含めて、ラブコメ、ドタバタで軽い作りの前半は、後半がボリューム満点なだけに、正によく出来た前菜と言っていいだろう。

まず注目すべきは主役の2人。世界選手権大会グランドスラムを達成した唯一の選手で、韓国に卓球ブームを巻き起こすきっかけになったという韓国女子のエース、ヒョン・ジョンファ選手役には、2010年の大ヒットドラマ「シークレット・ガーデン」のキル・ライムことハ・ジウォン。韓国で“興行保証小切手”(日本では「視聴率男」みたいな)と呼ばれる超人気女優ではあるが、「シークレット・ガーデン」では、相手役(ヒョンビン)から「短足ブス」とまで呼ばれているように、いわゆる自然体で、いかにもありがちなスタイル抜群の整形美人ではない。プチ整形こそしているが、日本の芸能人よりもずっと軽い。って「ハ・ジウォンに思い入れでもあるのか!」って?。あるよ!。
対する北朝鮮のエースで、ヒョン・ジョンファの宿命のライバルでもあったリ・プニ(他ではリ・ブンヒの表記がほとんど)選手役には、見た目にこだわる韓国の一般女優とはひと味違う、日本でも有名な国際派女優ペ・ドゥナだ。まさに南の顔と北の顔のイメージどおりで、異色中の異色の顔合わせ。この2人の演技対決が楽しみのひとつでもある。
さらに「シークレット・ガーデン」で、少し影のあるゲイのミュージシャン役で出ていたイ・ジョンソクが、北朝鮮の硬派なイケメン選手チェ・ギョンソプ役で出演。韓国は日本に比べて役者の数が圧倒的に少ないためか、演技の幅が広いなぁと感心することが多々ある。しつこいようだが「シークレット・ガーデン」でいつもフニャフニャしていたキム秘書ことキム・ソンオが、映画「アジョシ」の冷酷な臓器ブローカー役と同一人物だということを人から聞いて、それでもオレにはピンと来なかったということもあった。
それはそうと、なんと韓国の卓球女帝ことヒョン・ジョンファ御本人が卓球監督を務め、俳優たちに3ヶ月(半年説も)にわたる猛特訓を施したというから、どうりで役者たちの卓球技術も様になっているはずだ。
監督はこの作品が長編デビューとなる弱冠33歳のムン・ヒョンソン。映画の舞台となるあの時期、ソ連が崩壊し、南北ドイツの統一実現によって、朝鮮半島統一への期待が一気に膨らんでいた。しかし現在の状況といば、より緊張が高まり南北統一など夢のまた夢。しかも若い世代のほとんどは南北問題に関心を持たなくなっているということに危惧したことが、この作品を作るきっかけになったという。

主役2人の印象的なシーンは、B型肝炎を患いながらも治療がままならないプニに対し、ジョンファは「豊かな韓国に来れば」と亡命をほのめかすが、プニは「豊かな方がいいのならあなたはどうして“もっと豊かなアメリカ”(当時)で暮らさないの?~私はどんなに豊かな国よりも祖国で暮らしたい」と言うところだ。これは決して北の選手が党の監視を意識した言葉ではなく、経済的な貧しさ=不幸と決めつける資本主義社会への皮肉と受け止めるべきだ。「クラウド アトラス」のソンミさま(ペ・ドゥナ)のお言葉はイマイチだったが、今回のペ・ドゥナの言葉はどれもズッシリと重い。それよりも、ペ・ドゥナがちゃんとしゃべっている映画を他に観たことがない。
助演陣ではハン・イェリが演じる、精神的な弱さから初めての海外遠征の緊張によって、実力がまったく発揮できずにいた北の女子、ユ・スンボク選手のエピソードは何よりも感動的だ。悩むスンボクに緊張を解く方法を教えたのは南のジョンファなのだが、それはただ握りこぶしを胸に引き寄せて「フィティンッ!(ファイト!)」と叫ぶだけ。しかし地味で控えめな性格のスンボクには、その力強い掛け声がなかなか出せない。スンボクにとって最後の試合、彼女が負ければ団体戦決勝敗退が決定する。観客席では南北共同応援団の大声援。彼女の目の輝きが今までと少し違う。オレの目もすでにウルウル。この地味ぃ〜な印象のハン・イェリがまた、生真面目な北朝鮮選手の役どころをものすごく自然に演じられる若手女優の実力派で、これからも期待できそうだ。

南北両チームが徐々に理解を深め、親友、または兄弟姉妹のような関係になっていくが、やはりそこには現在も戦時体制で分裂したままという、南北問題の暗い現実が待っている。祝勝会を待たずして北朝鮮選手団が帰国することになり、辛い別れとなるラストシーン。ムン監督は「この場面のためにこの映画があるといっても過言ではありません」と語る。これでもか、というくらいに音楽やカメラワークで過剰に盛り上げ、涙、涙、涙のメロドラマに仕上がっていて、コリァやり過ぎと思いながらも鼻水すすっているオレがいる。しかし民族の問題に対する理解に関してはコリアンと日本人(←不明)のオレとでは、それなりの温度差はあると思う。まあ某大国の思惑が統一を妨げたり、東アジアにわざと火種を残して対立させたり・・・、などと個人的には思ったりもするが、それはさておき、オレにとってこの映画の本当の感動、いや、これまで体験したことのない興奮と感動と涙に暮れた場面は他にちゃんとある。団体戦決勝の全てのシーンだ。映画だけではなく、テレビのスポーツ観戦ですらここまでの感動と興奮は味わったことはない。というか、そもそもオレはスポーツにほとんど興味がないし、オリンピックやワールドカップを見ても、本気で日本を応援したことすらない。
競技場では南北の壁を越え、総連も民団もなく共同応援団を結成して、民族楽器をジャンジャン打ち鳴らし、大声援を送る在日コリアンたちの観客席の様子がリアルに再現される。ロケ地の体育館は真夏だというのに冷房が効かず、熱気で体感温度が50度以上に感じることもあったとハ・ジウォンは語っていた。だから出演者の飛び散る本物の汗で、その熱気がモロに伝わってくる。応援団は「ヒョン・ジョンファ!」を連呼し、ユ・スンボクを大声援で勇気づける。チームコリア側がポイントを取るたびに、オレはつい大声を上げそうになったり、こぶしを上げたり、立ち上がりそうになったりして、何度も我を忘れてしまうのだった。シーンを盛り上げるオーケストラも素晴らしいし、ラケットが球を撃つ乾いた音の連発、大声援、民族楽器、音響の全てがオレを会場の応援席へと導いてくれるような、こんな臨場感は未だかつて味わったことはない。「ヒョン・ジョンフ・・!」おっと、つい声を上げてしまった。「応援とはこういうものか」と初めて分かったような気がする。やっぱ「ニッポン チャッチャッチャッ」じゃ入っていけない感じだよなぁ。
しかし、ハ・ジウォンが出てるというだけで予備知識なしで観に行ったが、とんでもない目に合ってしまった。迷うことなく星5つ。でもなんでこんなに上映館も上映日数も少ないんだろ。
とりあえず、めげそうになったときは、握りこぶしを引き寄せ「フィティンッ!」と心の中で叫ぶことにしよう。

Comments

投稿者 ウメドン・ゴダール : 2013年08月27日 23:26

京都みなみ会館で2回観てきました。感動しました!
卓球というスポーツが、これだけ素晴らしいということを証明した映画があるでしょうか。
ピンポン、フォレスト・ガンプ・・・色々ありましたが、
ここまでの体現しているは、ちょっと無いと思います。
この映画は、俺にとってかけがえの無いものになりました。
今年ベスト1かも。

まず凄いと思ったのは、小道具。ニッタクのユニフォーム。そして、ラケット&ラバー。そして卓球のフォーム!どれも忠実に再現されています。
あのユニフォーム。自分も持っていましたが、全く汗を吸いません・・・ヒョン・ジョンファのラケットは日中号スーパーというバタフライのラケット。今でも売っているロングセラーのラケットです。裏の黒塗装が若干剥がれていましたし、きれいにグリップの部分が削られていた。ヒョン・ジョンファ自身が使っていたものを提供している可能性があります。
それにスペクトルというTSPのラバーを貼っている。表ソフトというラバーは表面が粒粒になっているラバーです。スマッシュしたり速攻選手に向いているラバーです。これを貼っていた!リ・プニ?自分はリ・ブンヒのほうが馴染みがありますが、リ・ブンヒもバック面にスペクトルを貼っています。

圧巻だったのはヒョン・ジョンファ役のハ・ジウォンのフォームの綺麗さ。
サーブの出し方も本人と激似。バックショート、フォアハンドスマッシュのフォームも本人とそっくりです。本人からむちゃくちゃ指導を受けたと思いますが、アレだけ似ているのは本人が相当頑張って完コピしたんだろうなと思います。
試合のシーンは残念ながら素振りをしてCGでボールを足していると思いますが、卓球マシーンでトレーニングしているところは実際に打っているのではと思います。

ちょっと残念なシーンがありました。ボロボロになったスペクトルを貼り直していたシーンがありましたね。ブレード大きさからして合わないのに、ヒョン・ジョンファは比較的新しいものをリ・ブンヒに差し出す。一瞬、ボロボロなのは財政難だからか?と思わす感じの撮り方になっていました。
俺はあの場面は脚色されていると思います。
代表チームの練習場にはいろんなラバーが無償で提供されると聞きます。当時、売れ筋だったスペクトルはあったはず。ましてや卓球マシーンまで練習場にある環境。ラバーの提供があってもおかしくない。

他に残念だったのは、中国選手の描き方。ちょっとこんな人とはちゃうんやけどなー。と思いながら観ていました。高軍選手もけっこう酷かったですが、トン選手はもっと酷かった!トンって呼ばないんやけどなーと気になりながら見ていたのですが、凄い悪者になってるし!
昔、卓球のビデオでインタビュー見たことがあるのですが、とても明るくて素敵な人でした。

あともうひとつ残念なのが。男子の紹介が少ない!キム・テクス、ユ・ナムキュ、リ・グンサン・・・居たはず!なぜひとつも名前がでない!

その他は完璧。
最後のバスのシーンは2回とも泣いてしまいました。アレはあかん。

来年、東京で世界卓球選手権(団体戦)があります。俺はたぶん観に行くと思いますが、日本のメダル獲得よりも気になるのが、コリア統合チームでの参加はあるのか?です。
絶妙のタイミングで上映された作品。映画頼みのところはありますが、是非とも参加してほしいです。おそらく中国が優勝するでしょう。しかし、去年の世界選手権個人戦(混合ダブルス)は北朝鮮ペアが優勝しました。
だからチャンスは十分ある。
韓国の現監督のユ・ナムキュとヒョン・ジョンファ、統合チームの監督になってほしい!リ・ブンヒは来日できないだろうなぁ。

投稿者 マツヤマ : 2013年08月28日 23:28

ウメドンへ

そうか、2回観たか。ウメドンがかけがえの無い映画に出会えてホントに良かったと思う。確かに卓球にぜんぜん興味がないオレでも、卓球が素晴らしい競技だと思ったくらいだ。
にしては、アイテムの分析ばかりで、その「かけがえの無さ」があまり伝わって来てないぞ。
この映画は女子団体戦がチームコリアで金メダルを取った、という事実に基づいて作られただけで、ほとんどが脚色だと思うよ。金は取ったけど、実際ダブルスは負けてるよな?
だけど、南北のエースが組んだダブルスを勝たせることで、映画としては勝利しているんだと思うんだ。“統一の勝利”を象徴的に描けるのはダブルスの勝利しかないからだろ。
事実がどうであっても、映画の中で脚色がどういう効果を上ゲているかが重要なんだよ。中国選手に申し訳ないとは思うけどね。謎の判定は実際あったみたいだから、中国は監督だけを悪者として描いても良かったかな?とは思う。
2回も観たかけがえの無い映画、という情熱がこの感想からは今ひとつ伝わってこない。「ムーヴィー43」もウメドンにはかけがえの無い映画かもしれないので、感想には大いに期待してるよ。

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