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2006年09月27日(Wed)

フラガール ☆☆☆★★★

Text by BABA

 未来をあきらめない。ババーン!

 (以下は田口トモロヲの声色でお読み下さい)

 1960年代。日本。

 石炭から石油への転換が性急に進められた。いわゆる“エネルギー革命”だった。

 福島県、常磐炭田でも首切り合理化が進められた。

 再雇用プロジェクトが立ち上げられた。

「常磐ハワイアンセンター」構想である。

 その目玉は「フラダンス」だった。

 炭坑町の少女たちを、フラダンサーに仕立てなければならない。責任者は岸辺一徳。途方に暮れた。

 東京から松雪泰子がフラの先生として迎えられた。

 生徒は蒼井優、シズちゃん(南海キャンディーズ)たち。

 盆踊りしか踊ったことがなかった。

 町民は、「うちの娘にハダカ踊りなんかさせらんにゃい」と反対した。

 …これは、ハワイアンセンターを創りあげた町民たちの、壮絶な死闘の物語である。プロジェクト・エックス! …みたいな話。ですが、『ブラス!』『リトル・ダンサー』みたいな? イギリス炭坑町映画の雰囲気もあり。

 まず素晴らしいのは当時の炭坑町の雰囲気が説得力をもって再現されていることです。落盤の危険に身をさらしながら、命がけでお国のために石炭を掘った坑夫たちが、日本の殖産興業を支えた…ということを、現代日本人・私はすっかり忘れておりました。そういう祖父の世代の頑張りがあってこそ今の日本があるのだ…、と感銘的に一人ごちました。

 種田陽平氏の美術がお見事、坑夫住居のフスマのボロボロっぷりなど、そういえば昔はこんな家がいっぱいあったなぁ(自分ちも含め)、と感慨深い。

 さらに時代再現上、大きく貢献するのは福島弁です。あ、福島弁が古くさい言葉だと言っているのではありませんよ。たとえば同時期公開の『出口のない海』は、数人の俳優さんの話し方が「今風」で、時代の雰囲気づくりを損ねている、と思うのですが、その点この『フラガール』は、出演者は福島弁ですので、「今風」の話し方が禁じられているも同然。…って、現地の方がお聞きになると色々不自然なところもあるのでしょうけども。

 方言、最高です。映画において言葉は大事。イタリアやフランスが舞台なのに、みんな英語をしゃべっているアメリカ映画はそれだけでムカつきますし、地方都市が舞台のはずなのにみんな標準語をしゃべっている日本映画もガックリ。きっちり方言を話してこそ、「地方」が描けるというものです。「祖国とは国語」なら「地方とは方言」。「方言」を話すことすなわち、グローバリズムとの戦いである。

 ってわけわかりませんけど、とりあえず、出演者の方々みなが、「だっぺ」「くだちぇい」と方言をしゃべりまくる、ことに蒼井優ちゃんが福島弁を話す、それだけでガッツポーズです。

 話変わって。炭坑の縮小は、メジャー石油会社の要求に他なりません。メジャーの権力はすこぶる強大。「首切り合理化反対、反対!」とデモやストライキで抵抗するのも大事でありますが、それだけで家族と自分の未来を守れるのか…? メジャーとその手下に、正面から打ち勝つのが難しいとなれば、フラダンスを踊るべきなのだ…。

 ここで私は『ミリオンダラー・ベイビー』のメッセージ=「自分の身は自分で守れ」を思い出すのです。そして『RIZE』同様、グローバリズムと戦うにはやはり、ダンスが有効なのだ…と腹の中で私語しました。

 とはいえ、少し触れられていましたがハワイアンセンターがすべての解雇者の再雇用を保証したわけではないのでしょう。炭坑を解雇され、ハワイアンセンターにも勤めなかった抗夫はその後、ハワイアンセンターにどのような感情を抱いたのか? というのはまた別の話でしょうか。

 ともかく。危うくメロドラマ風情緒に流れてしまうところをグッと押し返す、俳優さんのリアルな感情の流れをともなう演技の爆発が素晴らしいです。蒼井優ちゃんはダンスで爆発、松雪泰子さんは男湯に乗り込んで爆発、富司純子さんは「ストーブ貸してくだちぇい!」で大爆発。

 とりわけ富司純子さんの存在感は圧倒的でした。出演シーンはビシッと締まりまくっています。大女優の貫禄あり。

 家を出た蒼井優ちゃんに、小包が届く。こっそりフラダンス練習場に届けに行く。蒼井優ちゃんはソロダンスを練習している。その姿に名状しがたい何かを感じる…この、セリフなしで展開する一連のシーンでの、若手とベテラン女優の対決っぷりに目頭が熱くなりました。松雪泰子さんを加え、見事な「女優の映画」であります。

 また感動を盛り上げるシーンにおいても、クスッと笑かすスパイスを加える脚本・演出も見事です。「ストーブ貸してくだちぇい!」と叫ぶ富司純子も実はフラダンスやりたかったんや! とか、男湯にのりこむ松雪泰子のキレっぷりとか。笑いつつ泣き、泣きつつ笑う。

 …って、雰囲気『パッチギ!』っぽい? と思うておりましたら、プロデューサーは李鳳宇さん、脚本は羽原大介さん、『パッチギ!』と同じ。なるほど。

 また松雪泰子先生と生徒たちの心の交流もよい感じ。蒼井優ちゃんの幼なじみが夕張に引っ越しちゃうエピソードは、なんだか『二十四の瞳』を思い出しました。

 とにもかくにも、ぜひとも大画面でフラダンスをご堪能くだちぇい。バチグンのオススメ。

公式サイト:
http://www.hula-girl.jp/

Comments

投稿者 万 : 2006年09月28日 11:50

そうそう! 私もボロボロふすまの「柄」に
ものすごく懐かしさを感じたのでした。
種田陽平さんいい仕事してますね。
映画も笑えたけど、babaさんのレビューもかなり笑えますよー。

投稿者 Ryo : 2006年09月28日 12:40

当方、栃木県出身の為、「でれすけ」が、きちんと使われていただけで、合格!って感じでした。
そうなのです。あの年代あの地方の人間は、「バカ」とは言わんのです。ああ懐かしい。

いや、しかし蒼井優ちゃんは素晴らしい。
フラダンスシーンにはもうメロメロでした。

豊川悦司も昔は苦手だったんですが、コメディタッチの映画に出ている時はいつの間にか、好きになってました。

残念だったのは、若干映像の赤みが強かったことです。
BABAさんの仰るとおり、「女優の映画」だったので、もっと映える撮り方をしても良かったんじゃないかなあと思いました。

でも、傑作。

投稿者 baba : 2006年09月28日 23:13

>万さん

どもども。ホント、美術がよかった! です。あまり予算がなさそうな感じですけど、よくできてました。特に、ハワイアンセンターは、まるで本物ですね。って本物?

笑っていただければ本望でございます。


>Ryoさん

まいどコメント感謝です。
なるほど。「でれすけ」は「バカ」という意味なのですね。…と、いうことは、Ryoさんは岸辺一徳さんの、わーわー言うけど何を言っているかさっぱりわからないところもバッチリわかられたのでしょうか? うらやましい。

豊川悦司のヘアースタイル、素晴らしかったですね!

>若干映像の赤み

私は逆に、なんか昔の日本映画っぽくて、ええ感じやなー、っていうか、いつの映画やねん! って感じでよかったです。微妙に退色した雰囲気。

何にせよ、傑作でした!

投稿者 Ryo : 2006年10月02日 12:44

>バッチリわかられたのでしょうか?

無理でしたw
祖母が福島出身でしたが、興奮するとあんな感じで、全く分からなかったです。

映像の赤み、確かにそうですね。

もう一回観にいこ!

投稿者 龍曹 : 2006年11月02日 19:16

あのっ、お食事会とかお願いします。人数は5人ー6人くらいでお願いしますっ。食べてください。よろしくお願いします。

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