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2014年07月02日(Wed)

6月24日〜6月30日 etc

荒野へ

映画「イントゥ・ザ・ワイルド」の原作、ジョン・クラカワーの「荒野へ」を読みました。そこそこ裕福な家の出で、頭も良く、将来を嘱望されてゐた青年クリス・マッカンドレスが、大学卒業とともに全てを捨てて家を出(ほんとにお金とか燃やしてる)、全米を放浪しながら暮らし、2年後にはアラスカで餓死してゐる所を発見される・・・といふ実際にあった事件を取材したノンフィクション。評判通りの面白さでした。

この事件は全米で話題になったらしく、クリスに対する共感の声も多数寄せられたけれど、批判の声もそれに負けず劣らずあったらしい。曰く、頭でっかちの夢想家、傲慢でナルシスト、コンプレックスの裏返し、どこにでも居る愚かな青年・・・など。この本は、それらの批判が、どれも少し的を外してゐる事を示さうと書かれたものです。そのために、綿密な取材が行はれてゐる。白眉はクリスの死に至る経過で、これを解明する事によって、クリスが頭でっかちの夢想家ではなく、頭も良く能力も判断力もある青年であったこと、しかしホントに不幸な偶然から死に至ったこと、を示します。
それではクリスのアラスカ行きは愚行ではなかったのでせうか?私は、それでもやはり、クリスのやった事は愚行だったと思ひます。なにせ、碌な装備もせず、地図さへ持たないで、アラスカの荒野へとひとり入って行った訳ですから。
ただ、この“愚行”は、賞賛の意味で使ってゐます。彼の愚行はひたすら美しい。自分の正しいと信じる事(彼はトルストイやソローの信奉者でした)、自分の真にやりたいと思ふ事を、一途に愚直にやった訳ですから。そのために余計なものは全て切り捨てる。
私はウィトゲンシュタインを思ひ出しました。彼も、ウィーンで有数の富豪であるウィトゲンシュタイン家の莫大な遺産を放棄しました。自分の哲学には不要だ、と言って。彼は「旅は軽装でしなければならない」と言ってゐます。正に至言でせう。
新自由主義といふ下品な考へが跋扈する世の中で、クリスの愚行はますます美しく輝くであらう。さう、信じます。

今週の残念

映画・・・「300 帝国の進撃」。エヴァ・グリーンが、凶悪・残虐・無敵の女戦士アルテミシアを演じる、といふので期待して行った訳ですが・・・。やっぱ私、ザック・スナイダーってダメだわー。いや、今回はザックは監督ではないけれど、脚本と制作。で、映画はやっぱザック調でせう。「エンジェル・ウォーズ」の時にも思ったけど、この人、女性を描くのが下手なのね。あれだけ魅力的な設定なのに、ちっとも魅力的に描けてない。アクションもやたら派手なだけで、高揚感はまるでなし。うーむ、残念なり。

音楽・・・ポール・ウェラーの息子のナット・ウェラーがデビュー!ナットは実はGAKUTのファン・・・といふ不吉な噂は聞いてゐたんだけれど、やはり、といふか、「J-POP」をやってるらしい。な、なんやねんJ-POPって!!!・・・いや、私は聴いてないですよ、これ、確かに。もう、全く聴く気がしない。「ミュージック・マガジン」7月号に載ったヤスケンさんの苦渋に満ちたレビューだけで十分です。「うまく言えないが問題作だ」。・・・むむむー、残念。

アニメ・・・「狼と香辛料」全13話を観ました。これ、中世のヨーロッパらしき所が舞台なんですが・・・、あくまで「らしき」なのね。だからカトリックらしき教会が出て来たり、ヨーロッパ民衆の習俗らしきものが描かれてゐたり、資本主義の勃興らしきものが描かれるんだけれど、全て「らしき」だからリアリズムの厳しさを欠いた夢想・妄想の域を出てゐない。全てが生温い中途半端なものになってしまってゐる。無論、虚構の世界を描くのは問題ない。例へば「灰羽連盟」も、ヨーロッパらしき街が舞台の虚構の世界だけど、抽象度が高く、世界観として自立してゐるので、これは問題ない。現実世界とは隔絶した別世界として、現実に対する象徴として働く事ができる。でも、この「狼と香辛料」は・・・。
アニメだから、或は(原作が)ラノベだからといふ理由で、こんなのが許されてゐるとしたら問題だなぁ。皆川博子、とまでは言はないけれど、もうちっと勉強した方がいいと思ふな。それか、抽象度・自立度をあげるとか。残念。

カフェ・オパール・・・今週は、多分1997年にオープンして以来の最低の売り上げだった。とにかく誰も来ない!そこに、「食べログ」から、話題の店に選出されましたー、といふ通知とシールが届いたんだけど、これは約77万店舗のうち上位9%に入る話題・人気店の証しらしい。さ、さうなの?それは嬉しいが、それでこの体たらくか?・・・ううーむ、実に残念、残念、残念なーり!・・・明日からまた頑張ろ。

Comments

投稿者 オーソン : 2014年07月02日 22:15

『荒野へ』は昔僕も読んで非常に感銘を受けたのを覚えています。映画『イントゥ・ザ・ワイルド』も含めて、好きな話です。愛すべき青年ですよね~。レビューを読んで、また観たくなりました。

投稿者 元店主 : 2014年07月02日 23:12

やっぱ、何も持たず、その日暮らし、っていふのは魅力的だよ。さういった意味で、「宵越しの銭は持たねぇ」といふ江戸っ子には常に憧れる。まぁ、多分にロマンチックな妄想が含まれてるのは承知だけど。

クリスと私との最大の違ひは、自然に対する想ひ、だらうね。大自然の中で生きて行く・・・といふのには、実は私はあまり魅力を感じない。田舎とか、嫌いなんだ。やっぱ都会がいい。のたれ死ぬなら、アラスカの打ち捨てられたバスの中でなく、都会の陋屋の中がいいな。荷風散人が理想なんだ、実のところ。

「イントゥ・ザ・ワイルド」、梅本座でやる?

投稿者 オーソン : 2014年07月03日 23:16

いいですねぇ~、ぜひお願いします。
僕も大自然での(リアルな)生活には憧れはないですね。虫、苦手ですし。自然に対しては『アンチ・クライスト』で描写された森みたいなイメージを持ってます(汗)。木の実が屋根に落ちる音だけで怖いような…。
ただ、クリスの捨てっぷりには本当にロマンを感じます。
これこそが「断捨離」?

投稿者 マツヤマ : 2014年07月04日 22:19

当時オレも映画観に行って、すぐに小説読んだよ。コメントは控えるけど、見に行ったキッカケは、確か主役のエミル・ハーシュが好きだったからだと思う。もう一度観たいけど、時間的に無理かなあ。

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