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2005年08月11日(Thu)

土用の丑 []

 昨日は私が俗説(正岡子規が“野球”といふ訳語を作つた)に惑はされてゐた、といふ話を書いたが、このやうな事はよくある。例へば、土用の丑に鰻を食べるのは平賀源内の宣伝に皆が乗せられたから、といふ奴。いや、平賀源内が鰻屋のためになんらかのキャッチコピーを作り、それによつてかういふ習慣が定着したのは本当かもしれない。が、私の不確かな記憶によると、この話は、夏に売り上げの落ちる鰻屋から相談を受けた源内が、土用の丑だから鰻を食べやう! みたいなキャッチコピーを作り、みんななんで土用の丑に鰻を食べるのか訳が分からなかつたけれども、このコピーに乗せられて「土用の丑だから鰻を食べなきゃ!」となつて、それがいつの間にか定着した、といふものだつたはずだ。日本初の天才コピーライター平賀源内、といふ感じでこの話は大抵紹介される。これによると、土用の丑だから鰻、といふのは何の根拠もない事となる。しかし、土用の丑に、といふか、夏に鰻を食べるのは十分根拠のある事なのだ。何故なら、鰻は夏バテに効果があるから。この事は、実は万葉集にも載つてゐて、夏に鰻を食べるのは万葉以来の習慣だつたらしい。うーむ、となれば、この源内の話は、源内の凄さをアピールしたい誰かが事実を曲げてどこかに紹介し、それが面白いからドンドンと伝はつて俗説となつたのではないか? ま、正直言つて、今でもこの俗説が生きてゐるかどうかは分からないのだけれど、私の子供の頃はよく聞いた話でした。みなもと太郎の『風雲児たち』にも載つてゐたんぢやないかな?

 ところでこの鰻、未だ完全な養殖ができない、といふ話をこの間知つて驚いた。何故なら、市場に出回つてゐる鰻のほとんどに“養殖”と書いてあるからだ。実はこの“養殖”は、いはゆる成魚に卵を産ませてそれを育てる、といふ通常の養殖ではなく、幼魚を捕まへてそれを育てる、といふ意味での“養殖”だつたのだ。しかしこの方法では、たくさんの鰻を確保する事ができない。事実、鰻の漁獲量が年々減つてゐて、鰻食はピンチだといふ。では、なぜ通常の養殖ができないかといふと、鰻は成長の途中で性別の決まる魚なのだけれど、幼魚(まだ性別は決まつてゐない)を捕まへて育てると、なぜかみんな雄になつてしまふのださうだ。だから卵を産ますことができない。世界中(特に日本)の鰻研究者は、必死になつてこの謎を解かうとしてゐるが、なかなか解けない。なんと言つても、鰻はその成長のプロセスでさへ、実はよく分かつてゐないのだ。何故なら、驚くべき事に、鰻は未だにその産卵場所が見つかつてゐないのである! つまり、天然の鰻の卵を見た人はまだゐない、といふ事なのである。うーん、面白い。なんか猛烈に鰻が食べたくなつてきました。

 ちなみにこの話のネタ元は雑誌「Newton」の9月号です。

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