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2011年02月26日(Sat)

「冷たい熱帯魚」 []

Text by Matsuyama

気に入らないやつはぶっ殺す。死体は解体して、肉と臓器はサイコロにして川魚のエサに。骨は灰にして千の風に。
「ボディが透明になっちまえば何もわかりゃしねえ、俺は常に勝つ!」

1995年に犯人夫婦が逮捕された埼玉愛犬家連続殺人事件に「インスパイアされた」という言い方は、被害者遺族への配慮かもしれないが、これは8割がたあの事件の実録と言っていいだろう。
ペットショップ「アフリカケンネル」の社長・関根元は実際に「ボディを透明に…」というフレーズを言っていたという。主人公・社本(吹越満)のモデルとなった、当時ドッグブリーダーだった山崎永幸氏は、関根元と不幸にも出会ってしまったことによって、精神的に恐怖支配され、死体の損壊遺棄にまで手を貸したことにより逮捕された。実際に「お前もこうなりたいか!」「子供は元気か。元気がなによりだな」と脅されていたという。

強烈キャラの関根をモデルにした村田幸雄の役をでんでんが演じているが、初めて見るこれまた強烈な名演技で、見た目は実物ともよく似ている。
1995年といえば、関根夫婦の逮捕から始まり、阪神・淡路大震災。そして一連のオウム事件へと続く。凶悪な事件と大災害のニュースを飲み込んだオウム事件のような存在が、この映画で主人公よりも巨大な怪物、村田だ。

「俺は常に勝つ!」という村田は必ずしも相手を殺すことで勝つということではない。村田にとって自分のススメに素直に応じた者はすべて負けなのだ。相手に疑われたり、拒否された場合、いわゆる自分が負けそうになった場合は殺してでも勝つということだ。
本来なら出会ってしまったら出来る限り初期段階で避けるか逃げるかしなければならない村田のようなオヤジに、実際に出会ってしまったらどうなるか。気弱な人ならきっとヘラヘラと苦笑いしながら、ずるずると引きずり込まれてしまうのではないだろうか。恐い恐い。

けっきょくこの映画は、単なる希代の悪人を描いているのではなく、我々の身近にある数々の罠を描いているようだ。
新興宗教やネットワークビジネスのようにわかり易いものもあるが、テレビCMに自ら出演する社長なんかはまさにあのタイプだと思う。健康食品や化粧品の通販会社や発毛業界。また、筆者のような自営業者によく来る「絶対に儲かります」といったセミナー案内のファクスや「◯◯が安くなります」という電話など胡散臭い罠は非常に多い。こんなのに引っかかったら負けなのはあたりまえで、もっと言えば、何でもかんでも進められたものを買ってしまったら負けなのだ。服でも化粧品でもヘアサロンでも病院でも、進められた物を買う、進められた有料サービスを受けることは負けなのだ。大なり小なり「セールスは洗脳」ということを忘れてはならない。マジメな人ほど無駄な物をたくさん持っていたりする。

この映画の恐さは、村田の姿を見ることによって、誰もが「こういうオヤジに会ったことがある」という記憶が甦ることだ。裏で何をやっているかは分からないが、ああいう雰囲気のオヤジはきっとそこらにいるはずだ。
この映画はテレビ放映は絶対に無理だと思うが、そんなことをまったく意識も計算もせずに、リアル、真実(ノンフィクションという意味ではない)を描くのが映画なんだ、と改めて感じた。「悪人」「告白」で語られる閉塞感、虚無感、コミュニケーション不在なども確かにリアルなのかもしれない。しかし、その真実の陰惨さをテレビ放映可能な範囲に留めるかどうかで、少なくとも筆者は、それが映画かどうかを見極める要素のひとつとして見ていきたい。
昨年上映された「ヒーロー・ショー(井筒監督)」や今作のような目を覆いたくなるような陰惨を極めた世界観に対しても「あれは極端だ」と思う人もいるかもしれないが、ほとんど報道されない少年のリンチ事件のドキュメントを読めば、あれでも生優しいと思うかもしれない。

とにかく村田のイケイケドンドンにハラハラ(ワクワクかもしれない)しながら観ていたら、主人公の社本が突然の反撃。ここから筆者にとって少しイヤな方向になってくる。負け続けてきた社本が人生に折合いを着けるべく行動を起こし、いきなりマッチョになったあたりからは、テレビ的ではないにしても「Vシネ系ホラー級の安さにオチてしまった」と非常に残念に思ったのだ。

オマケとしては「ヒーロー・ショー」の強烈キャラ鬼丸(兄)役の阿部亮平が、今作ではドスの効いたチンピラ役で登場したことに感激! 村田&鬼丸の凶悪コンビで何かできないものだろうか…

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