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 Movie Review 2004・5月27日(Thu.)

ビッグ・フィッシュ

公式サイト: http://www.big-fish.jp/

 ティム・バートン最高傑作! ババーン! …と申しましても、確か『スリーピー・ホロウ』も「興奮! ティム・バートン最高傑作!!」と宣伝されましたので、そんなことはどうでもよくて、『バットマン・リターンズ』『マーズ・アタック!』など、異色の傑作を連発したティム・バートン、このごろは普通のアメリカ映画を撮るようになっております。「普通のアメリカ映画」とは何か? すなわちそれは「政治映画」、この作品も「法螺吹きアメリカ父さん、愛してるよ!」みたいなお話で、現在アメリカ政府が吹きまくっている嘘・大げさ・まぎらわしい駄法螺を擁護する映画なのであった。…という見方をしてしまう自分にほとほと呆れかえりました。

 それはともかく、私事ですが、そもそも私ティム・バートン好き、『マーズ・アタック!』火星人の情け容赦のない、底意地悪さに感動したもので、そのティム・バートンが、こんなハートウォーミングな話を撮って良いものでしょうか?

 そういうティム・バートンに対する思い入れ抜きにしても、少し話が変だと思いました。

 以下、ネタバレ含みます。

 父と息子の確執と和解が、話の柱です。父エドワードは、話に尾ひれをつけがち、息子ウィルは、かつて父の法螺ばなしを喜んだけれど、長じるに従い父を疎んじ、渡仏してジャーナリストになっております。

 ジャーナリストは、「真実を報道すること」が建前では重んじられる職業なので、やはり、父の法螺に対する反発があったのでは? と愚考するのですけれど、やがてウィルは、父の法螺にも真実が転がっていることを発見し、和解の瞬間が訪れる…という展開です。

 私には、親子が和解したというよりも、ウィルが屈服してしまったように見えました。父親と同じような法螺を吹いてよいのか? と釈然としなかったわけです。ポイントは、父エドワードをどう見るか? エドワードの法螺話をどう見るか? にあります。

 冒頭、息子ウィルの結婚式で、父エドワードは法螺ばなし披露に夢中になって、「誰が結婚式の主役かがわかっていない!」と息子になじられます。息子でなくとも腹を立てて当然だと私は感じました。なぜ、息子の結婚式で、よくわからない「でかい魚の話」をしなければならないのか?

 父エドワードは、場の主役になりたがる、周り(聞き手)の気持ちが読めないオヤジだと私には思われました。その後に語られるエドワードの人生がハッピーなのも面白くない。仮に、めちゃくちゃ悲惨な人生が語られ、そういう悲惨さを笑い飛ばすために法螺で粉飾しているというのなら腑に落ちるのですが、法螺の裏に隠された悲惨さは見えてこない。

 エドワードがなぜ結婚式で、息子の神経を逆なでするような法螺を吹いたのか? そこんところは未解決なまま、ウィルが法螺吹きオヤジの衣鉢を継ぐというのが、どうにも解せなかったのです。

 ところがですね、公式サイトの「ストーリー」には、

 エドワード・ブルームは、彼が語るお伽噺で有名になった人物。(中略)彼が語る「人生のストーリー」に、誰もが楽しく、幸せな気分になった。たった一人、息子のウィルを除いて。

 …と、なんか、ウィルの方がダメなヤツのように書かれております。うーむ。そうなのか。どうも映画の見方を間違ってしまったようです。大方のみなさんは、父エドワードを愛すべき人物と思われていたのですね。どうやら私には、ティム・バートンに対する偏見があって、エドワードの法螺ばなしに楽しく幸せな気分にひたることを妨げていたのだなぁ、と一人ごちたのでした。

 と思いつつ、この『ビッグ・フィッシュ』にも、例えばユアン・マクレガーが中国に潜入するシーンにティム・バートンらしい、ダークなファンタジーを見出してホッとし、やっぱり、ティム・バートンが撮るなら、楽しく幸せな法螺話より、ホラーな話の方が良いな、と。

 ともかく、大方のみなさまには好評をもって迎えられているようですので、オススメです。

☆☆★★(☆= 20 点・★= 5 点)

追記

 上記レビューに対し、店主よりすぐれた論評が BBS に寄せられましたので、以下に転載します。

 ババさんのレビュー、興味深く読みました!

 ババさんのストーリー理解と、公式サイトでのストーリー説明が食ひ違つた、といふ話ですが、公式サイトのストーリー説明はしばしば的はずれが多いとは言ふものの、この部分に関してはやはり、公式サイトのストーリー説明の方が的を射てゐるのではないか、といふのが私の考へです。この映画においては、息子のウィル以外はみんなエドワードのホラ話を楽しんでゐたやうに思へましたし、挙げ句の果てには自分のお嫁さんにまで「あなたのお父さんて、面白くて好きよ」と言はれ、「オヤジはみんなに好かれるんだ!」と嫉妬丸出しで言ふところなど、この映画におけるウィルのダメキャラぶりが如実に出てゐると感ぢました。といふか、私の考へでは、ウィルはこの映画におけるティム・バートンの仮想敵として描かれてゐる。それはどういふ事か。

 ババさんも鋭く指摘したやうに、ウィルがジャーナリストである、といふのがこの映画のミソなんですね。ホラ話 VS 真実の話。もちろん、ティム・バートンはホラ話側です。こんな場面がありました。ウィルがエドワードのホラ話を遮つて、「そんな嘘ッぱちぢやなくて、本当の父さんが知りたいんだ!」と叫びます。それに対して、エドワードは「ワシはホラ話も含めてワシなんぢや。お前は何も分かつとらん」と応じ、ウィルはそれが理解できなくて席を蹴ります。私はここに、ティム・バートンの思想をみました。ティム・バートンは、『シザーハンズ』にせよ『マーズアタック』にせよ、素敵なホラ話を語る映画作家ですが、ティム・バートンを批判する側は、こんなものはお気楽な現代のお伽噺(オタクのファンタジー)に過ぎない、と言つてきました。それに対してティム・バートンは、世の中にはホラぢやないと伝はらない真実もある、その事が分からない人はボクの映画なんて観なくていいよ、と応じたやうに思へたのです。私は、ウィルは絶対に『マーズアタック』を酷評したと思ひますね。

 しかし、さうなれば『マーズ・アタック』好きのババさんはウィルに敵対する、と思ふのですが、さうならなかつたのは、やはりこの映画が「父子モノ」だからでせうか。

 ちなみに、何故エドワードは息子ウィルの結婚式で息子を怒らせるやうなホラ話をしたのか、といふババさんの疑問に対する私なりの答へですが、それは、結婚式とはさういふものだからです! ババーン! 結婚式とは、新郎新婦を肴にみなが勝手に盛り上がるものであつて、友人代表と称する輩が新郎新婦の悪行や恥ずかしい思ひ出を暴いて、みなで大笑ひするものなのです。だからエドワードは正しいし(みんなエドワードの話に大受けでした)、それに対して「今夜の主役はボクなのに!」と怒る息子のウィルは、あまりに野暮だと感ぢました。あの挿話で、映画の冒頭からウィルのダメぶりを表現する、さすがティム・バートン、と私などは感心したのですが…。

 それにしても、映画ッて、いいですねー!!!(ハッシー風)

BABA Original: 2004-May-27; Modified: 2004-May-30