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 Diary 2004・7月22日(THU.)

ひとり狼

 みなみ会館に『市川雷蔵映画祭 2004』の中の 1 本、『ひとり狼』(池広一夫監督・1968 年)を観に行く。この映画はいはゆる股旅もので、雷蔵は「人斬り伊三」と呼ばれる冷徹非情、博打も剣の腕も滅法たつ、といつた渡世人を演じてゐる。親兄弟も師匠も弟子も仲間もなく、裏街道を己の腕一本に頼つて生きていく男の強烈なストイシズム、そしてそこに滲む哀感。正に雷蔵のためにあるやうな役で、その魅力の全開振りに、私は陶然とスクリーンに見入つた。雷蔵没後 35 年。いまだ根強い人気を保ち続けるのもむべなるかな、と私はひとりごちたのだが、実を言ふと、私は期せずしてその「根強い人気振り」を見せつけられてしまつたのである。

 私とトモコは例によつて前から 3 列目の席で観てゐたのだが、我々のだいぶ後ろに一人のお婆さんが座つてゐて、しきりに拍手をしたり笑つたりしながら映画を鑑賞してゐたのだ。お婆さんは、雷蔵と他の役者のやりとりに、「やー、嘘ばつかり!」「まー、そんなこと言つて!!」と笑ひながらいちいち合ひの手をいれ、雷蔵に危機が迫ると(寝てゐる雷蔵に殺しの手が伸びる)、「あ! いま(刀を抜く)音した! 音した! 聞こえた、聞こえた!!」と大騒ぎをするのである。雷蔵がキメる度に、拍手、拍手。最後ももちろん拍手で締め。と、言ひたい所だが、事態はそんなに甘い終はり方をしてくれないのであつた。映画が終了し、みんなが席を立つて出口へと向かうなか、お婆さんはスクリーンに向かつて小さく手を振りながら、「ぢやあ、またね! 帰るわ」と呟いてゐたのである! ううむ、このお婆さんは、雷蔵の映画がどこかでやる度に、雷蔵と会ふために映画館へと足を運び続けてきたのであらうか。恐るべし、雷蔵。て、いふか、このお婆さん。案外、他にも贔屓の役者が何人もゐて、映画館に会ひに出掛けてゐるのかもしれませんが。

cover ちなみに『ひとり狼』 は、もうすぐ(8 月 27 日)DVD 化されるやうです。

小川顕太郎 Original: 2004-Jul-24;
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