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 Movie Review 2005年6月21日(Tue.)

電車男

 美女とヲタクの純情恋物語。ババーン! アニメオタクかつゲームオタク22歳、[彼女いない歴]=22年の電車男君が、ひょんなことから中谷美紀似の別嬪さん=エルメスさんに出会います。巨大掲示板「2ちゃんねる」でポロッと報告したところ、応援書き込みあり、電車男君は、「名無しさん」たちのアドヴァイスに一念発起…というお話。

 モテナイ君が美女にアタックするという点では『最後の恋のはじめ方』と同じ話、この映画では「2ちゃんねる」がウィル・スミスの役を果たすというわけですね。すべてを金銭に換算するアメリカでは“デート・コンサルタント”という職業が、日本では匿名の善意あるいは野次馬根性がモテナイ君をバックアップするのであった。だから何?

 閑話休題。「電車男」のお話は、私もまとめサイトを読んだことがあり、その、読み出したら停まらない面白さに驚嘆、その後、あれよあれよの書籍化→ベストセラー→映画化、一大ブームを巻き起こしているようですが、それはやはり、この物語になにがしかのリアルが存在するからでございましょう。

 ってよくわかりませんが、「名無しさん」たちの親身かつ無責任な助言、ツッコミ、茶々入れが面白いわけで、ネットのやりとりの面白さを、映画は存分に生かそうとしており、「2ちゃんねる」未経験者にはよくわからなくても結構! くらいの勢いとテンポで、独特の用語や何かがとびかいます。

 電車男君の書き込みを爆撃に見立てるのを再現したり、妄想・騙り、さらにはAA(アスキー・アート、文字絵)までが花火となって打ち上げらたり、うーむ、なんか凄いかも? と呆気にとられました。

 とはいえ、「2ちゃんねる」未経験者の方でも十分面白く観られるように作られております。と思います。

 クライマックスは多分に、映画的に脚色・捏造されてまして、電車男君は、恋することの圧倒的な苦しみを知り、夜の街を徘徊・疾走、オタクの本質を糊塗するコスチュームがはぎ取られ、「百式」Tシャツスタイルになって夜の街に倒れ込みます。ここで自転車にけつまづくのはお約束、自転車は歩行者の邪魔にならないよう駐めたいものである。うむ。閑話休題、そこへエルメスさん、すさまじくご都合主義的に現れ、電車男君は血を吐くように真実の言葉を伝える。…この盛り上げ方は演出過剰かーー!? 普通ならドン引き必至ですが、私は茫然と感動していたのでした。

 電車男君は、外見を変えて「脱・オタク」に成功したからエルメスさんをゲットできたのではなく、自分の殻をブチ破れたからなのであって、自分の殻をブチ破るには自分と対決しなければならず、それは、他人から与えられたマニュアルを捨て、とことん無様にのたうちまわる勇気があってこそ、初めて可能なのだ…。…ってそれが「脱・オタク」ということなのかも知れませんが。

 電車男君がエルメスさんと知り合うきっかけを産んだのも、魂の奥底から奔馬のごとく跳びだした一ヶの勇気であります。『電車男』とは、自分の殻をブチ破る、自己変革の勇気を描く物語、映画ではそこんところが強調され、見事な青春映画に仕上がっている、と一人ごちました。

 映画の独創として他に、数人の「名無しさん」が類型として登場、「名無しさん」それぞれのドラマが展開するのもアクセントとなって成功しておりますね。って類型的ですが。

 また、駅のホームで恋の苦しみに悶え苦しむ電車男、向かいのホームで「お前にはオレたちがついている!」と応援する無数の「名無しさん」、なんていうシーンは痛さ炸裂! 悶絶しましたが、痛さが炸裂するのが22歳という年齢のリアル、なのでありましょう。って適当です。

 電車男君を演じるのは山田孝之君、ピタリのはまり役でお見事。「中谷美紀に似ている」エルメスさんを演じる中谷美紀は、意外にも中谷美紀ソックリ! …ってよくわかりませんが、電車のヨッパライに大杉漣、エルメスさんの女友達に西田尚美と、それぞれ適役。

 これまで『(ハル)』(森田芳光監督)『リリィ・シュシュのすべて』(岩井俊二監督)など、「ネットでのやりとり」の面白さを映画に導入しようとした試みはありましたが、ついに全面的に成功した、画期的な作品が生まれました。かつて洋の東西問わず、ここまで「ネットの面白さ」を描き出した作品があったでしょうか? って、そんなことはどうでもいいのですが、まあ、なんちゅうか、2004年の日本の断面を描き出した感あり、ぜひとも世界各国で公開すべき日本映画の傑作、バチグンのオススメ。

☆☆☆☆(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA Original: 2005-Jun-20;