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 Movie Review 2004・10月14日(Thu.)

ヴィレッジ

 その《地上の楽園》は、奇妙な《掟》に縛られていた…。――何故? ……って言われても…。ババーン! 名作『シックス・センス』、変な傑作『アンブレイカブル』、かなり笑える傑作『サイン』と、異色の傑作連発の M・ナイト・シャマラン製作監督脚本の新作は、1897 年、深い森に囲まれて外部から閉ざされた小さな村の奇妙なお話。

 例によって、ちょっとしたどんでん返しがありますので…って書くのもネタバレっぽいので、もとい、ちょっとしたどんでん返しがあるかも知れないし、ないかも知れないので予備知識一切なしの状態でのご鑑賞をオススメします。

 ネタバレは避けたいと思いますが、勘のいい方ならピーン! と来ると思いますので、以下、未見の方は絶対読まないでください

 おっと、これだけ警告しているのにまだ読んでますね。だ・か・ら、未見の方は死んでも読まないでください! で実際、私の場合、「えーっと、M・ナイト・なんとかの新作『ヴィ…』なんだっけ?」としか知らずに鑑賞しまして、「いったいどんな話になるのやら…」とワクワクドキドキ、なんと! 驚くべきことにホアキン・フェニックスが出てる! シガニー・ウィーヴァーも出てる! と、そんなことにもたまげながら、しかしなかなかだらだらしてて話が進まなくてイライラ…じゃなくてフワフワした宙ぶらりんな感じの前半がたいへん気持ちよく、シャマラン作品ならではの「先が読めない感じ」を堪能いたしました。

 今回シャマラン監督が仕掛けたのは…………あっ! あなた、見てないのにまだ読んでますね! ダメですよ。まったく油断もスキもありゃしないって感じですが、以下、未見の方は本当に絶対! 読まないでくださいね。(しつこい?)

 というか、以下若干、サスペンス映画巨匠の代表作のネタも少しばらしますので、たとえ『ヴィレッジ』を見ていたとしても、殺人シーンが世界一有名な、その作品を見ていない方も、以下、絶対に読まないでください。

 ……ここまで警告したらバラしても誰も怒らないと思いますので書きますが、シャマラン監督、実は自作にこっそり出演するのが好き、ということからもわかるように大のアルフレッド・ヒッチコック好き、今回もチラリと出演しているですよ!! バラしてしまった! あ、いや、そんなことはどうでもいいのです。

 そのヒッチコックが、「まだ見てないお客さんのために、絶対ネタをばらさないでくださいね!」とのお願い付きで公開したというのが『×××』(しつこく伏せ字)、この『×××』最大のどんでん返しといえば、映画の中盤で主演のジャネット・リーが………というシーンでございましょう。しかしこのシーンが素晴らし過ぎたために、ヒッチコックに言及されるときは大抵、枕詞のように、このシーンが文脈から切りはなされて語られてしまってネタバレしまくっており、『×××』をヒッチコックの目論見通りに鑑賞できたのは、初公開時の観客だけ、というのは、まさに「映画には旬がある」ということですな。ふむ。

 で、今回シャマラン監督は、この、主役キャラが映画の途中で………という大ネタに挑戦しており、まー私、何も知らなかったものでビックラこいてますます「一体、どんな話になるんやーー!?」と大いに途方に暮れる極上の宙ぶらりん感を味わい、これぞサスペンスである! と大満足、なるほどヒッチコックの『×××』を初公開時に見た観客はこんな感覚を味わっていたのかしら? と一人ごちました。そういえばヒッチコック好きのブライアン・デ・パルマも同じネタをかましてましたが、あれは『×××』に対するオマージュが見え見え、この『ヴィレッジ』の方が効果的ではないかしらん。それに、地味なホアキンなので誰も大ネタと気づいていないみたいですし。ははは。

 ってそんな話もどうでもよくて、後半、話の先が見え出すと色々と腑に落ちないところが出てきます。

 外部の世界は無意味な死と暴力があふれる世界なのに、目が見えない娘を、初めてのおつかいにやるのはいかがなものか? というか、最初からウィリアム・ハートがおつかいに行けばいいやん? キミ、外の世界がそんなに恐いのか? とか、7 歳で死んだ子供のためには掟を破らなかったのはどういうこと? あるいは、なぜ村人は白人ばかりなのか? 村人は差別主義者なのか? などなど、謎が謎を呼びます。

 どうしてウィリアム・ハートが阿呆に見えるのか? 彼はやはり、存在しない「脅威」で村人を脅し続ける指導者、すなわちブッシュ大統領なのでは? 目の見えない娘はイラクへ派遣される若い兵士を、自由に森と村を行き来する愚者は、リベラル左翼の寓意ではないかしら?

 となると、なぜ村人が「赤い色」を恐れていたかも得心できます。「赤」といえば、共産主義のシンボルカラー、白人の村を囲む森を「話してはならないもの」という、かつて共産主義、いまテロリストという赤色を好む妖怪が徘徊しており、自作自演のはずが……というわけですな。ふむふむ。では「黄色」は? さっぱりわかりませんが、世界から隔絶され、1897 年を生きる村とは、現代のアメリカ白人社会そのものに他ならない……ってそのまんまですか? かどうかは、ご覧になった方が判断していただくとして。

 ともかく、近頃のアメリカ映画といえば、予告編を見ればオチまでわかってしまうものばかり、それに対し、一体どんな話になるのか見当がつかない異色作を作るシャマラン監督は偉い!

 撮影は名手ロジャー・ディーキンス(『クンドゥン』とか)、松明のみで撮影された(ように見える)夜の映像も素晴らしいのでオススメです。

☆☆☆★★(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA Original: 2004-Oct-13