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 Movie Review 2004・10月16日(Sat.)

丹下左膳・百万両の壺

公式サイト: http://www.sazen2004.com/

 愛情時代劇。あんた、出番だよ! ババーン!

 さて映画が誕生して 100 余年、あまたの作品が作られてきましたがもっとも面白い映画は何か? それは『丹下左膳餘話 百萬兩の壺』(1935 年・山中貞雄監督)だ!! ダーン! と自信を持ってバチグンにオススメしつつ、私、古いモノクロ映画はほとんど見ていないので、話半分に聞いていただきたいのですが、その世界映画史上に残る、名作中の名作をリメイクするとはなんたる大胆不敵さ、しかも、例えば北野武監督『座頭市』のように新解釈するでなく、脚本はほぼそのまんま、丹下左膳役・豊川悦司の演技も、大河内伝次郎ソックリ、しかしオリジナルは 92 分のコンパクトサイズ、リメイク版はほぼ 2 時間、となるとどうしても間延びした感じで、完全リメイクと謡いながらも微妙にチョコチョコ変えられていて、わかりやすくなっておりますけれど成功しているとはいいがたく、にしてもほとんどオリジナルのままなのにクレジットには堂々と「脚本:江戸木純(ごく小さく三村伸太郎。山中貞雄の名前も入れんとアカンのと違うか?)」と出て、いやはや大胆不敵。

 水増しされているのは主にチャンバラシーン、実は今日見られる「オリジナル」は、戦後 GHQ によってクライマックスのチャンバラシーンがカットされたものだそうで(オープニングタイトルも短くなっているそうです)、そのチャンバラシーンは戦前見た人の記憶にのみ残る幻のシーン、それがなんとこのたび 16mm プリント約 20 秒のフィルムが発見され、DVD には、その貴重な映像が収録されておりますので、オリジナル未見の方はもちろん、既になんべんも見たという方もいますぐ以下のリンクをポチってください。

 閑話休題。なるほど、私などオリジナルのクライマックス、チャンバラシーンがカットされていたとはつゆとも知らず、「なんと大胆な省略であろうか!」と感嘆していたのですからおめでたい話ですな。ってそれはともかく、「そのまんまリメイク」といえば、ヒッチコックの『サイコ』を模写・あるいはレディメイド感覚でリメイクしたガス・ヴァン・サントの例もありましたが、ひょっとしてその線を狙ったのでしょうか?

 あるいはこれまた空前の名作『無法松の一生』(稲垣浩監督/板東妻三郎主演 1943 年)を、稲垣浩監督自身が、三船敏郎主演でリメイクしたもの(1958 年)の場合なら、1943 年版は「車夫ごときが帝国軍人の未亡人に恋慕するなど、もってのほか」と時局柄(脚本段階で?)カットされたシーンがあり、さらに戦後 GHQ によって「日露戦争の勝利を祝う提灯行列」のシーンがカットされたそうで、三船版リメイクは、稲垣浩監督の「なんとしても脚本どおりに完成させねば!」との執念というか、脚本を書いた亡き伊丹万作への鎮魂の思いがにじむ感じでこれまた素晴らしい作品、それに対しなぜ、いま、『丹下左膳餘話 百萬兩の壺』のリメイクなのか? と大いに疑問を持ちつつ今回トヨエツ版を鑑賞したところ、そんな疑問はどうでもよくなってこれがなんと! なかなか面白ございました。

 と、いうのもやはり、素晴らしい脚本(山中貞雄+三村伸太郎)は誰が映画にしても、それなりに面白い作品になってしまうという、映画において脚本がホントに大事と、はからずも証明している…と一人ごちました。

 さらに、豊川悦司=丹下左膳、和久井映見=お藤/矢場のおかみさんがヤバいです。矢場のおかみさんがヤバいです。思わず凍りつかせてしまいましたが、豊川悦司は「丹下左膳を演じる大河内伝次郎」を演じている感じですが、オリジナルとはまた違った、おかみさんに怒鳴られてへどろもどろ駄々をこねるところがたいへんにキュート、和久井映見のカミナリの落としっぷりも素晴らしく、『スクール・ウォーズ/ HERO』に続いて好演でございますね。

 また、「こけ猿の壺」探しに奔走する(って奔走しない)源三郎=野村宏伸と、その奥方/萩乃=麻生久美子のコンビネーションもオリジナルとはまた違った良い感じ、『丹下左膳餘話 百萬兩の壺』はシェイクスピアの戯曲のごとく、色んな俳優さんの組み合わせで何度でも再生可能なものなのであろう。こうなったら色んな組み合わせでで毎年、盆暮れに映画化していただきたいな、丹下左膳=ヴィン・ディーゼル、お藤=キャメロン・ディアスとかいかがでしょうか。

 そんな妄想はどうでもよくて、リメイク版もなかなか面白かったのですけれど、その後、オリジナルを DVD で鑑賞、やっぱりメチャメチャ面白かったです。オリジナルが作られて 70 年、映画は、鮮明な音響、カラー映像などを得ましたが、失ったものははるかに大きい……と一人ごち、70 年前の映画の方が、はるかにモダンで洗練されていて、ギャグも新鮮に感じられるから凄いな、と。

 素晴らしいオリジナル脚本に敬意を表してオススメ。しかしオリジナル未見の方は、まず!! そちらを見てくださいませ。

☆☆☆(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA Original: 2004-Oct-15
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