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 Movie Review 2004・5月20日(Thu.)

GOD*DIVA
ゴッド・ディーバ

公式サイト: http://www.god-diva.jp/

 神が憧れたのは、月よりも青い彼女の涙。ババーン!

『ブレードランナー』で描かれた、暗くてゴミゴミしてて多民族・多文化が入り乱れる都市イメージに、多大な影響を与えたフランスのコミック“バンド・デ・シネ”、その代表的作家エンキ・ビラル、『薔薇の名前』のストーリーボードを描いたり、『バンカーパレス・ホテル』『ティコ・ムーン』を監督したり、『フィフス・エレメント』への協力を断ったりしつつ、ついに! 独自の都市イメージを映画全編に繰り広げたのであった。ババーン!

 独自の都市イメージ、と申しましても、『ブレードランナー』でゴミゴミ都市がバカウケして以降、『CASSHERN』など粗悪な類似品が多々作られましたので、さすがに新鮮味は少ないのですけど、「本物のゴミゴミ都市を見せてやる!」と言わんがばかり、騙されたと思って鑑賞したら、「うほっ! こんなゴミゴミ都市見たことないよ!」「皮はぱりぱり、中はとろとろ!」って感じ、やっぱり本家本元は違いますね、コストを抑えるため CG は使ってますが、基本のところは無添加・無着色、昔ながらの製法で作ってます。って感じ? ってよくわかりません。

 彩度が抑えられた、グレーに近い色調で統一された映像が滅法美しく、エンキ・ビラル的建造物が建ち並び、コミックそのままのキャラクターが動き回って、エンキ好きの方は狂喜乱舞されるのではないでしょうか? 私の場合、エンキ好きってわけではないのですが、見てよかった! と一人ごちました。

 また、私、CG が大の苦手、主要キャラ数名以外は、みな CG と知って、一瞬(2.0 sec.)脱力しましたが、見ているうちに CG と実写キャラの違和感がだんだん無くなっていくのが凄いです。かつてない映像体験であります。

 そこらへんの粗悪品とどこが違うのかしら? とつらつら考えてみました。

 まず、隅々にまで一人の作家の美意識が貫かれている、ということ。プロダクション・ノートを読みますと、エンキのスケッチを元に CG を作り、さらにエンキが取捨選択を行い、細部のチェックを入れ、という具合。また参照できるコミック多数があるので、エンキの美意識がスタッフに伝わりやすかった、ということもありましょう。

 次に、CG を使うことが、映像上で正当化されている、ということ。描かれる 2095 年のニューヨークは、人工皮膚を移植するのが当たり前の世界で、そういう人工皮膚を移植された人間は CG 、移植していないのは実写キャラ、という具合に、CG と実写キャラの違和感に、合理的な理屈がつけられております。ってアホみたいに単純な理屈ですけど、CG に違和感を感じても、それは人工皮膚に対する違和感に転化し、世界観を強化する、というわけですね。CG で作ってもよさそうなハンマーヘッド・ミュータント(?)が、安めの実写着ぐるみだったり、律儀に理屈が押し通されていて面白いです。

 さらに、実写と CG の境界を曖昧にする工夫(トンチ)が色々施されております。例えば、実写シャーロット・ランプリングや、主人公ジルの髪型は、ワックスでガチガチに固められており、CG 世界とマッチしない“さらさら髪の毛問題”をあっさり解決しています。

 また、傑作なのが、CG キャラ「ホルス神」で、この人(というか、神)は、頭が鳥なのですけど、しゃべるときはなぜか、ノドのシワがモグモグ動いて、着ぐるみみたいなんですよ。着ぐるみ風に CG 化されているわけで、わけわからず頭がぐねぐねになりました。

 そんなことはどうでもよくて、お話は、ビラルの代表作『ニコポル三部作』の『不死者のカーニバル』 『罠の女』 を元にしており……おお! 邦訳が出ているではございませんか。さっそくポチって最初の方をパラッと見たところ、少年マンガばかり読んでる私には、読むのに時間がかかる感じ、映画の方も、アメリカ娯楽映画を見慣れた私には不親切な感じで、『バンカーパレス・ホテル』『ティコ・ムーン』なんかは、つい眠気をもよおすものでしたが、今回の『ゴッド・ディーバ』は連続殺人あり、カーチェイスあり、エロあり、見せ場色々、舞台も原作のパリからニューヨークに移され、セリフも英語で、アメリカ娯楽映画寄りになっていて前二作よりは見やすくなっている。かも?

 とはいえ、子孫を残したい神様が人間に乗り移って、女子を酔わせてレイプに励むという無茶な話は、アメリカ映画ならトラッシュ感あふれてしまうところ、アートな雰囲気でまとめたのは、さすがフランスって感じ? って、エンキ・ビラルはユーゴスラビア出身、近作『モンスターの眠り』 は、ユーゴ紛争をネタにしているそうです。ポチッとな。

 ニューヨーク上空に突然ピラミッドが出現したり、セントラル・パークに異世界の入り口が出現したりと、普通なら吃驚仰天して、あれこれ説明してしまうところ、「そういうイメージなんだから、いいじゃないか」とばかりに、めちゃくちゃ説明不足なところは、老人力としかいいようのない魅力があります。ってそのへんはコミックを読めばわかるのかも。エンキ・ビラルは 1951 年生まれのくせに、こんなに老人力を炸裂させて今後どうする? って感じ、しかしそれはバンド・デシネの大家にして初めて可能な領域なのであった。適当です。

 ともかく、好き嫌いがはっきり別れる作品だと思いますー。が、『戦場のピアニスト』のドイツ将校トーマス・クレッチマンが主人公ニコポルを好演、ぜひクレッチマン主演でシリーズ化していただきたいな、と希望する所存。

☆☆☆★★★(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA Original: 2004-may-19
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