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 Movie Review 2003・8月8日(FRI.)

シティ・オブ・
ゴッド

公式サイト: http://www.cityofgod.jp/

 ブッチ切りに凄い映画です。ブラジル「神の街」と呼ばれるスラムでの、子どもギャングの抗争を、60 年代〜 70 年代のクロニクルとして描いております。

 店主の日記(2003 年 8 月 1 日付)では、「MTV 出身のハリウッドの監督がやりさうな、不自然な早送りやパンやカットアップの多用、要は映像がガチャガチャと動き廻る」と書かれております。私も、MTV 風/ CM 風映像が苦手なのですけれど、この『シティ・オブ・ゴッド』は大丈夫でした。

 MTV 風の映像は、なぜ駄目なのでしょうか? MTV 風の映像は、珍奇なるがゆえに、観客の「感情の流れ、連続性」を寸断してしまう面があります。登場人物に感情移入してお話の展開に夢中になっておれば、「いやー、この映像は凄いですね」と詠じているヒマはないわけで、映像の珍妙さを観客に意識させることは、映画の面白さの一面を、著しく削ぐのであります。MTV 風、CM 風の映像は、むしろ視聴者に振り向いてもらわねばならないテレヴィのためのものであり、劇場でスクリーンを注視している観客には不要なのであります。勿論、珍なる映像を愛でるのも、映画の楽しみの一つでありますが、そういうのはスノッブである、と、私は思うのです。

 で、この作品、映像は確かにガチャガチャしておりますが、感情の流れを寸断するものではなく、「このシーンが表現すべきものは何か?」が熟考されたのちの表現と見受けられ、全体 8 つに分けられたシークエンスそれぞれに工夫が凝らされ、感情の流れを寸断するというより、むしろ、疾走感を増すプラスの方向に働いております。

 この作品から連想したのは、マーティン・スコセッシ監督の『グッドフェローズ』です。『グッドフェローズ』では、様々な音楽と映像スタイルがゴッタ煮にされ、ギャング生活の狂騒ぶりが表現されていました。この『シティ・オブ・ゴッド』においても、ガチャガチャする映像に「まあ、落ち着け」と言いたいけれども、前のめりで疾走し続ける登場人物たちに似合ったものであり、2 時間 10 分、まさしく映画は走り続けるのであった。

 それはさておき、撮るべきものを、撮る前に作り上げた、その仕込みっぷりが見事であります。素人の少年を集め、アドリブのトレーニングを積み、セリフも 70 %近くがアドリブ、とのこと。脇役の端々に至るまで、キャラがビンビン立ちまくっております。この立ちッぷりは見事でございますね。まさしくキャラが映画の中で生きており、映画が終わったとき、彼らと別れるのがさびしい、みたいな。

 映像はガチャガチャでも、ベーシックな技法がうまく使われているのも良いです。土台がしっかりしているのですね。例えば、オープニングで主人公の回想に入り、ラストで再び同じシーンがくり返される「円環構造」は、昔からよく使われる技法で、最初は状況がよくわからなかったシーンが、くり返されるとまったく違って見えてくるというのが快感です。

 さらに、ベネの送別ディスコパーティ。リトル・ゼは、友達に裏切られた気持ちで一杯なのに、周りは『カンフー・ファイティング』で大盛り上がり。悲しい場面に、脳天気な音楽を流すことによって、悲しみがより際だつ「対位法」は、黒澤明が好んで使ったものでございます。

 また、主人公ブスカペが、いざ悪事に手を染めんと街に繰り出すも、結局…、のくだりは、オチもついて落語、というか短編小説の雰囲気が漂います。麻薬の取引が行われるアパートの部屋の歴史の語りなど、「練りに練った語り口」が素晴らしいです。

 そんなことはどうでもよくて、我々(誰?)は、ブラジルのスラム街が、どんなに凄いことになっているか? に、刮目せねばなりません。数千パーセントのインフレ率で、経済が破綻した国家のスラムは、どのようなものなのか? 「仁義なき」、どころか、法律、宗教、道徳、倫理、「公」意識が消滅してしまった社会はどんな世界か? これまで貧民街の物語というと、子どもは、大人の食い物にされるのが常でした。しかし子どもが銃を持って立ち上がったとき、一体どのような事態が起こるか? 遠いブラジルの話だからと安心してもおられぬ、心胆が寒くなるリアリティがあります。映画を見ている間、こんなに緊張したのは『その男、凶暴につき。』以来か? これこそ「必見の映画」でございます。ザ・ベスト・オブ・バチグンのオススメ。

☆☆☆☆★★★(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA Original: 2003-Aug-8;

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