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Movie Review 10月24日(WED.)

トレーニング
 デイ

 パトカー勤務から麻薬課へ配属されたイーサン・ホーク。今日は麻薬課勤務の第一日目。適性検査も兼ねており、彼の教育・検査係はデンゼル・ワシントン。ロサンジェルス市警の大物、名物刑事だそうで。某カフェで待ち合わせます。

 イーサン曰く「おはようございまーす。」

 デンゼル、ジロリとねめつけ答えて「ヘイ、オレは今新聞を読んでいるのだ。メーン。よく聞け。新聞の記事は 90 %は SHIT だ。でも残り 10 %はオレを楽しませてくれるんだ。お前、新聞読む邪魔をしたからには、オレを楽しませてくれるんだろうな?」

 …おおおおお。いきなり思いっきり嫌な野郎です。なるほど黒人 VS 白人、対立しながらベテラン+ルーキーで悪を懲らしめるのかー、やれやれー、…と思いきや、「おお、そうきましたか!」のヒネリ具合バチグン、アレヨアレヨの展開がお楽しみですので、予備知識なしでのご鑑賞をオススメします。

 で、以下ネタバレ。

 麻薬課の大物名物刑事デンゼルは、とんでもない汚職刑事で、保身のための殺人もいとわぬ極悪非道野郎だった! 熱血理想主義刑事イーサンとの対決が始まります。

 汚職刑事の言い分はこうです。「麻薬組織のヤツらは、人の命なんか屁とも思っちゃいねえ狼たちだ。狼を倒そうと思ったら自らも狼にならねばならぬのだ。わうぅうううううー、わうぅうううううー(←狼の鳴き真似)。おい、お前も鳴いてみろ。わうぅうううううー、わうぅうううううー。」

 しかし、かのニーチェも申しております。

「誰であれ、怪物と戦う者は、その過程においてみずからが怪物にならぬよう注意すべきである。長いあいだ奈落をのぞきこんでいると、奈落もまたこちらをのぞきこむものだ」。

 おおーっと、どうしたんだオレ。突然ニーチェの引用とは似合わぬことを! いや、たまたま読んでる小説『GO』に出てきたもんで。そんなことはどうでもよく、「狼と戦うには狼にならねばならぬ」とは、たやすく自らを怪物に変えてしまう危険をはらむ理論なのですね。

 確かに、潜入捜査(アンダーカヴァー)、囮捜査も行う麻薬捜査官にはダーティさが求められるのでしょう。ルーキーの甘っちょろい理想主義が通用する世界ではありませんね。ところが、二人の対決は新米刑事に軍配が上がります。勝因は、いかなる時にも市民の安全を優先するという「警察官魂(SOUL)」なのですね。魂(SOUL)を亡くした権力者デンゼルは、魂(SOUL)の持ち主によって畢竟滅ぼされるのみ、なのであります。ここで一句。

 BROTHER が
  魂(SOUL)忘れて
   あの世行き。

 この映画は直接には警察批判をおこなうものですが、アメリカ帝国の横暴を支えるメンタリティへの批判でもあります。汚職刑事の「狼」理論は、CIA の数々の謀略を支えているものと同じでしょう。同時多発テロに対する米英の報復行動はアフガンの無辜の民に対するテロの様相を示しており、これを擁護する理屈も「狼」理論と同じでしょう。テロと闘うにはテロも辞さず、というわけですね。これでは新たな報復テロ(ブローバック)を呼ぶだけであります。テロの連鎖を断ち切るには、理想主義と呼ばれようとも国際紛争解決の魂(SOUL)に則った解決を追求するしかない、と私は卒然と考えたのでした。

 国際紛争解決の魂(SOUL)に則った解決とは何か? …それは国連を中心に経済封鎖など非軍事措置を取り…おっと、思いっきり脱線してしまいました。

 そんなことはどうでもよくて、『U-571』にも参加していたジョン・エイヤーのエッジの効いた脚本がいい! 監督は『リプレイスメント・キラー』でも頑張ったアフリカ系アメリカ人のアントニー・フュークワー。LA ワッツなどの黒人居住区にロケを敢行、メチャいかつい黒人がジロリと睨みつける横では子供が普通に遊んでたりするのが余計に恐かったりして…など黒人の演出がバチグンです。これまでインテリ黒人の役が多かったデンゼルが汚れ役にチャレンジ、この辺もヒネった感じでグー。ヒップホップな音楽もカッコ E のでオススメです。

BABA Original: 2001-Jan-24;

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