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 Diary 2004・10月5日(Tue.)

RESURRECTION

 映画『RESURRECTION』 を DVD で観る。これは不世出のヒップホップスター、2PAC (TUPAC SHAKUR)のドキュメンタリー映画である。この映画が異色なのは、最初から最後まで IN HIS OWN WORDS 、ナレーションを 2PAC 自身が行つてゐる事だ。何故これが異色なのか? 2PAC の事を知らない人にはよく分からないかもしれないが、要するに、彼は殺されたのである。そして、死後にこの映画は作られた。それなのに、ナレーションは 2PAC なのである。冒頭、「撃たれちまつた」といふ言葉に続いて、まるで本当に 2PAC 自身が甦つて(RESURRECTION)、自分の短くも壮絶な人生を振り返つてゐるかのやうに作られてゐるのだ。これはかなり奇妙な感覚である。義経のやうに、死後も根強く生存説が語られてゐる人だけに、この奇妙な感覚も強い。とにかく、このやうな凝つた構成に、貴重な映像や音源をふんだんに使つて作られてゐるので、非常に濃密な作品に仕上がつてゐる。ファンなら大満足だらう。

 今、ファンなら大満足だらう、と書いたが、ファンでない人、2PAC にそれほど興味のない人が観ても、かなり楽しめると思ふ。なぜなら、ここには、ある意味ヒップホップの全てがあるからだ。この映画で描かれる 2PAC は、理想的なまでにヒップホップを体現した存在である。知性的で、才能豊か、見栄えもよく、それでゐて、野性的。といふか、野獣的である。決して鎖に繋がれない、美しき獣。喋つてゐる内容、様子などから、2PAC は相当頭が良いと察せられる。が、彼には終生トラブルがついて廻つた。警察には 10 回以上捕まつてゐるし、何件も訴訟を抱へてゐた。抗争にも巻き込まれ、撃たれたり、怪我をしたりしてゐたが、最終的には蜂の巣にされて殺されてしまつた。しかし、テレビなどに出演した時の 2PAC の様子を見てゐると、それも仕方がないか、と思つてしまう。それほど、彼は傍若無人に振る舞つてゐる。言ひたい事を、しかし決して言つてはいけない事を、魅力的な言葉の銃弾にしてまき散らしてゐる。周りの人間が「テレビなんだから、それ以上喋るとヤバい!」と言つて、みなで 2PAC を取り押さへて口を塞ぐシーンまであるほどだ。もちろん、2PAC 自身も、そんな事は百も承知であつたらう。が、抑へる事ができなかつたのだ。そこには、一切の保身、計算、妥協、等と無縁な、ただひたすら自分に正直な人間の姿がある。実はかういふのが、ヒップホップで最高の価値とされる「リアル」といふ事なのだ。ヒップホップでは、みな「リアル」である事を目指す。「リアル」であらうとする。が、真に「リアル」たり得た人間など、さうはゐない。この世は、「リアル」であり続けるにはハード過ぎるからだ。2PAC は「リアル」であり続けた希有な例である。それ故、25 歳でその人生を終へなければならなかつたのだらう。が、また、だからこそ、彼は伝説となつたのだと思ふ。ヒップホップとは何か、「リアル」とはどういふ事か、と問ふ人は、まづこの映画を観るべきだと、私は思ひます。

 この DVD は特典映像も、1 時間を超える豪華なものだといふ。これは、明日にでも観やう。

小川顕太郎 Original: 2004-Jan-7;
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