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 Diary 2003・12月16日(TUE.)

欲望

 タカハシくん来店。タカハシくんは昨日、フリッツ・ハールマンの話を読み、今日はそのことで頭がいつぱいのやうである。フリッツ・ハールマンとは、第一次大戦後のドイツで、目をつけた浮浪児たちを家に連れ込んでは同性愛行為にふけり、最後には殺してその肉を食べ、余つた部分はソーセージやステーキにして売つてゐた男である。肉屋だつたのだ。「ハノーヴァーの吸血鬼」と呼ばれ、恐れられた。

 さて、タカハシくんは料理人であるが、本日は狩られたばかりの鹿の肉をさばいたさうだ。その、ハッキリと動物の形をした肉をさばきながら、ハールマンはこんな風に人肉をさばいたのか、とか、同じやうに人肉をさばいて「鹿の肉です」と言つて出しても絶対にばれないよな、などといふ考へが、頭を渦巻いてゐたさうである。最後に残つた骨を見て、これを捨ててゐる所を見られたら、疑はれるかも! と、戦慄までしたといふ。うーん、妄想系だな。

 マルクスだつたか、全ての欲望は他人の欲望、とかなんとか、そんな内容の言葉があつたが、タカハシくんは正にハールマンの欲望を自分の欲望にしかねない所がある。この間も、「実は自分には人体をばらして中を見てみたい、といふ欲望がある」と衝撃の(?)告白をしたのだが、その時は切り裂きジャックの話を読んだ直後だつたのだ。少し前まで、人の血を見るのは怖い!とか震へてゐたくせに。なんか、読んでゐる本が悪くないか?とはいふものの、その本を薦めたのは私なのですが。

 タカハシくんの将来を考へて、次は「野口英世伝」とか「二宮金次郎伝」なんかを薦めてみやうかと愚考してをります。

小川顕太郎 Original:2003-Dec-17;