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Theater Review 1999・9月26日(SUN.)

金融腐食列島[呪縛]

 先日、京都映画祭で北文化会館に戦前の日本映画を見に行ったおり休憩時間にベンチでタバコを吸っていたら、前に座った見ず知らずのじいさんに「今年の夏はいつまででも蒸しますなワタシ 89 歳でんねん戦後のドサクサはたいへんでしたわ一生懸命働いて日本を建て直しましたけどなんだすの最近の銀行は? 私らこないな日本にするため頑張ったんやありまへんでええ加減な融資で儲けて損失出したら税金で穴埋めやとアホか。自分らおっきい家に住みやがって今度は消費税上げるやとアホか。こんなことゆうたらなんやけど刺し殺したろか思とります若い人はもっと怒らなあきまへん。へえさいなら」と話しかけられ(実話)、なるほど赤の他人に文句を言わにゃあならんほど、腹が立つのもごもっとも。

 この映画、総会屋への不正融資で腐りきった大銀行が検察庁の強制捜査をキッカケに経営陣刷新、ミドルエイジの中堅社員の奮闘によってゆ着の『呪縛』をふり切っていく様を描く。

 ところでこういう大型社会派ドラマは日本映画では久々であるゆえ、社長とか政治家を演じられる恰幅のいい役者をちゃんと揃えられるのか? という要らぬ心配もあったが、この手の映画には欠かせない仲代達也、佐藤慶、丹波哲朗などに加え、新しいところでは主演の役所広司を筆頭に本田博太郎、遠藤憲一、石橋蓮司などなど新旧のオッサン俳優総出演ってなもんで見どころ充分なキャスティング。

 もうワクワクってなもんだが、演出がどうもいかんぞ。パンフによるとラース・フォン・トリアがよく使っているステディカムより軽くて簡単なイージー・リグっちゅうのを使ったらしいが、とにもかくにもカメラがグングン動き過ぎ。おまけにカットもぱっぱかぱっぱか割り過ぎだと思う。アホか。せっかく俳優陣が重厚に演技を競っているのにそんなに演出が自己主張してどうする? 仲代達也なんか眼のギラつきがいつもより半減しているぞ。おまけに特別出演・丹波哲朗に一言もしゃべらせないのはどういうことだ? 犯罪的だ。本田博太郎には笑かしてもらったけど。

 なんか意味ありげに何度も登場する日比谷公園のクラリネット吹きも監督にはなにがしかの思い入れがあるんだろうが、アホか、と思う。とにもかくにもドカドカめまぐるしい場面展開で、観客は「何が起こっているのでしょうか?」とストーリーを把握しようと一生懸命にならざるを得ず、ともかくもう全編「前回のあらすじ」のダイジェストを見せられているようでさながらエヴァンゲリオンの劇場版、またはウォン・カーウァイの『楽園の瑕(きず)』のようだ。つまりいつまでたっても「映画」が始まらない感じってことです。

 後半、株主総会になってやっとこさ盛り上がるが、こちとら一般庶民は前述のごとく総会屋とのゆ着だけに怒っているわけではないので「総会屋にも毅然とした態度をとったぞ、どうだ参ったか」というような結論でどうせえちゅうねん。監督は原田真人。この人の監督作を見るのは『ガンヘッド』以来。どうもパッとしませんね。

 何が言いたいかっていうと、いつまでたっても悪い奴らは良く眠っているってことです。

BABA Original: 1999-Sep-26;

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