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 Movie Review 2005年7月28日(Thu.)

氷の国のノイ

 おおきな世界へ飛び出そう! ババーン! 珍しやアイスランド映画、アイスランド映画といえば、『春にして君を想う』『ムービー・デイズ』『コールド・フィーバー』のフレドリック・トール・フリドリクソン監督作品が有名ですが、って有名じゃないかもしれませんが、とにかくメチャクチャ寒そうなメランコリックな気候、幽霊が普通にウロウロしてる国というイメージ、そのアイスランドの田舎町、不良少年ノイの物語。

『大人は判ってくれない』(フランソワ・トリュフォー監督)、『動くな、死ね、甦れ!』(ヴィターリー・カネフスキー監督)、『けんかえれじい』(鈴木清順)など、不良少年ものは名作多数…って他に思いつかないけれども、この『氷の国のノイ』もまた、アッと驚く快作・傑作でございました。

 ノイはお婆ちゃんと二人暮らし、お婆ちゃん「ノイ、朝だよ、学校へ遅れちゃうよ」と起こしに来れば、ノイ「むにゃむにゃむにゃ、ぐー」、お婆ちゃんやおら猟銃を取りだし、窓を開け放ってぶっ放す! 前代未聞の「起こし方」でツカミはバッチリ、それはともかくノイは学校へ行くのがアホらしくてしょうがない様子、というのも一瞬でルービック・キューブ6面そろえてしまう天才、しかし悲しいかなアイスランドの田舎町、ノイの天才を発見し、伸ばしてやろうなどという者は、どこにもいないのであった…。

 色彩を抑え、寒々しさ全開のアイスランド田舎町の雰囲気が気色よく、ハワイのように脳天気な常夏の楽園に生まれた人と、アイスランドに生まれてしまった人々、この違いは何? と私は哲学的な心持ちにおそわれました。

 それはともかくノイは、お婆ちゃんのススメで「紅茶占い」(?)をしてもらうのですけど、ノイの未来には「死」のみがある! と不吉な予言をされてしまいます。

 もちろん頭脳明晰なノイは、アホな占いなど信じないのですけど、フレドリック・トール・フリドリクソン監督作でも描かれたように、幽霊が普通に目撃されてしまうのがアイスランドですので、占いは見事に的中、人生の深淵・不条理が顔をのぞかせる結末が見事でございます。というか、呆気にとられた私なのでした。

 この「占いの的中の仕方」など、観客・私の予想を軽々と裏切っていく小ネタの数々が素晴らしいです。ノイには別居中・酔いどれ父がおり、その父が言います。「女の子を落とす必勝法を教えてやろう、『×××』(ネタバレ自粛)と声をかけるんだ。絶対やれるぞ!」。ノイには心憎からず思っているスタンド女給さんがおり、普通、その女の子に『×××』と声をかけると思うのでしょ? しかしノイはそんなことはせず、そのフレーズは別のところで意表を突く形でとびだす。ノイの聡明さと、父親のダメさというキャラが、ゴリッと彫り込まれる瞬間です。

 監督・脚本はこれが長編第一作のダーグル・カウリ、悲劇とも喜劇ともつかず、意地悪なのか心優しいのかよくわからないタッチは私好み、なんでも出演者は「近所の郵便屋さん。映画初出演」「監督が行ったベジタリアン・レストランで見つけた女性。映画初出演」という具合で、アキ・カウリスマキ的ゆるーいキャスティングも素晴らしく、今後が実になかなか楽しみな監督さんです。「不良少年もの」がお好きな方に、バチグンのオススメ。

☆☆☆★★★(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA Original: 2005-Jul-27;