京都三条 カフェ・オパール Cafe Opal:Home

Home > Reviews > 05 > 0126
 Movie Review 2005年1月26日(Wed.)

パッチギ!

公式サイト: http://www.pacchigi.com/

 河があるなら、橋を架けよう。ババーン! なかなかに面白かった『ゲロッパ!』の井筒和幸監督新作は、1968年京都が舞台。日本人高校生・松山くん(塩谷瞬)と在日朝鮮人キョンジャ(沢尻エリカ)のラヴロマンス、喧嘩に明けくれる府立高校生と朝鮮高校生、その周辺の物語。

 いきなりトリヴィアですが、朝鮮高校生らが『女体の神秘』を鑑賞する映画館は、「八千代館」(新京極四条上ル三筋目東入ル)。大正時代頃オープンのレトロな映画館、普段は成人映画三本立て上映されております。

 補足トリヴィア:この八千代館、映画に登場するのは初めてでなく、『瀬戸内ムーンライト・セレナーデ』(1997年・篠田正浩監督)でも、長塚京三親子が『カサブランカ』を鑑賞する設定で使われました。そのときの『カサブランカ』看板は、今も八千代館前に見ることができます。

 補足トリヴィア2:『パッチギ!』クライマックス、日本人高校生と朝鮮高校生多数が大喧嘩をくり広げるのは、出町柳、賀茂川と高野川が交わる河原。オパール6周年記念闇鍋はここでおこなわれました。ちなみに昨年私、たまたま通りかかって、『パッチギ!』撮影準備風景を見学したのであった…。

 それはともかくその他、三条会、哲学の道、新京極、京大西部講堂、北野白梅町、京都タワーなど続々登場、「ここはどこかなー?」と楽しめることウケアイ、バチグンのオススメです。

 そんな京都人だけが知っているお楽しみはおいといて、泣いて笑って喧嘩して、の痛快娯楽作、ラヴロマンスあり、差別・民族対立の問題、さらに1968年頃フォークブームの風俗描写も興味深い青春グラフィティ、さまざまな物語がゴッタ煮になってクライマックス、主人公・松山くんが唄う『イムジン河』になだれ込んで圧倒的な感動を呼ぶ、近年まれに見る傑作でございます。

 井筒和幸監督、『ガキ帝国』『岸和田少年愚連隊』など「不良少年」ものでは、最高水準傑作をモノにしてきましたが、今回も素晴らしすぎる傑作です。(それぞれに、「映画を見る」シーンがあるのが面白いですね)

『ガキ帝国』は紳介・竜介、『岸和田少年愚連隊』はナインティナイン、漫才コンビが主役でしたが、今回はそうではないのがチト残念、代わりと言っては何ですが、「ザ・ぼんち」のおさむちゃんがチョイ役、ケンドーコバヤシも出演しておりますので、お笑いファンの方にもオススメです。

 随所に盛り込まれた細かいギャグもビシビシ決まる感じ、ガムをもらう子供がもらす一言、あるいは不良高校生による「ABCD包囲網」の説明など、大笑いさせていただきました。

 さて、以下ネタバレですが、日本人高校生と朝鮮高校生は、激しく暴力の応酬/報復の連鎖をくり広げる。やがてそれは、一人の朝鮮高校生チェドキの不条理な死を招きます。

 報復の暴力には「言葉による暴力」もある。チェドキ葬式の場で、やり場のない怒りにかられた在日朝鮮人・老人が、主人公=松山くんに浴びせかける言葉は[いいがかり]あるいは[八つ当たり]に等しく、「言葉による暴力」以外の何物でもない、と思うのですけど(感じ方は人それぞれですが)、それに対して松山くん絶句。鴨川の橋の上でギターをたたき壊すしかない……いや、唄がある!

 ここの、[ギター破壊]→[KCBラジオ出演・熱唱]→[ヒロイン=キョンジャがそれを聞く]の流れは、なかなかに強引で、普通ならドン引き必至の展開ですが、平行して他のドラマ…出町柳での大乱闘、ヤンキー桃子の出産などが描かれて、なんだかよくわからないけどやたらと盛り上がり、『イムジン河』を熱唱する松山くんの胸中察するに余りあり、私は強く心打たれたのでした。

 クライマックス、感動を盛り上げつつもちょっと笑かす息抜き(コメディ・リリーフ)があり、KCBラジオのディレクター(大友康平)が上層部と一悶着起こすのが笑えるし、大乱闘現場に[桃子出産の報]を届けに来た元スケ番看護婦ガンジャ(真木よう子)の、素晴らしすぎるドロップキック→腰をさすりながら退散……井筒監督の、感動を盛り上げつつちょっと引いて笑いを入れる高等テクが素晴らしいです。サービス満点。

 ともかくこの『パッチギ!』もまた、「暴力の連鎖」「報復の連鎖」に終止符を打つという、現在世界に突きつけられている課題にひとつの解決策を示しています。あるいは日韓、日本と北朝鮮の問題にも……。と私は茫然と感涙に打ち震えました。「河があるなら、橋を架けよう」。その「橋」とは、唄であり映画であり、ひょっとしたら『冬のソナタ』なのかもしれない……。

 希望あふれる爽やかなラストシーン、なかば茶化して語られた、「未来は私たちのものであり、君たちのものでもある。だが、究極的には君たちのものだ!」(うろ覚え)との言葉が脳裏によみがえり、私は「『パッチギ!』最高」と一人ごちたのでした。

 隅々まで気配りが行き届いたキャスティングも見事、主要・よく知らない若手俳優さんたちの京都弁も違和感なく、バチグンのオススメです。

☆☆☆☆★★(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA
Original: 2005-Jan-25;