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 Movie Review 2005年2月1日(Tue.)

北の零年

 激動の時代――北の原野に辿り着いた546名の愛と闘いの大河。ババーン! 製作費15億円、大々的なる北海道長期ロケ、吉永小百合、渡辺謙、豊川悦司、その他豪華絢爛共演陣の、東映が社運を賭けた超ド級超大作である! ババババーン!

 と、期待に胸ふくらます観客の度肝を抜くのはやはりこの人、吉永小百合。映画の冒頭いきなり居眠り!! リビングは環境です。上映時間2時間55分の長丁場、居眠りでもしなきゃやっとられんのか、さすが111本目の主演作誇る大女優、余裕綽々です。…しかし大事な映画のオープニング、超大作の本番中に、ぐーぐー眠りこけるとは……。私は大女優のとてつもない貫禄に、鈍器で後頭部を殴られたかのような衝撃を受けたのでした。

 いや、この[居眠り]オープニングは、やがて語られるであろう北海道での過酷なドラマをクッキリ際だたせるための巧妙な演出、のんびりほのぼのすればするほど、来るべき不幸の到来を予感させるのであった。

 私も、漠然とした不安・不吉な予兆にとらわれました。……ひょっとして、『カンフー・ハッスル』または『パッチギ!』を再見・三見した方が有意義な時間を過ごせたのではないか…?

 それはともかく明治維新直後、淡路島の小藩・稲田家は北海道・静内への移住を命じられた。これは、北の大地のきびしい自然にたち向かった人々の、苦難の物語である。プロジェクト・エーーックス!! …みたいな話ならどんなにか面白かったろうに、と思うのですけど、たとえば秋、静内に移り住んだ吉永小百合一家は[掘っ立て小屋]に住んでおり、さては厳しい冬が到来、たいへんな目に会うんでないかーー? とワクワク。しかるに厳しい冬は[トンチ]であっさり乗り越えられてしまいます。そのトンチとは…いよいよ冬到来、すると、唐突に「二年目・春」の字幕挿入。いつの間にか春。…字幕1ヶで北海道の冬を乗り越えるとは…。まったく見事に経済的なトンチです。

 このトンチは後半にもくり返されます。寒さのため作物が育たない静内で人々はいかにして[産業]を成り立たせるのか? …これも「五年後」の字幕一ヶが挿入され、いつの間にか吉永小百合は牧場を経営、順調に軌道に乗せており、おかげさまで稲田家の衆はみな幸せに暮らしましたとさ。一度ならず二度までも…。

 かように「大自然の猛威と人間の闘い」を描くことが回避されるのは、作者の狙いはそんなところにないかもしれない……。しかしいきなり[イナゴの大群]が襲来したりするしー。作者は何をやりたかったのか…? と一人ごちました。一応、「国家権力の気まぐれに翻弄される人々」みたいな左翼的テーマがあるようですが。

 監督は『GO』『きょうのできごと』『世界の中心で愛をさけぶ』の行定勲氏。徐々に作家性を確立してきましたが、この『北の零年』でひとつの完成を見せたのではないでしょうか?

 それは、「登場人物からリアリティを根こそぎ奪う」というもの。この『北の零年』でも「そんなヤツぁおらんやろ!」とツッコミ入れる以前に、セリフのほとんどが状況説明の説明的なセリフ、キャラクターから「感情の動き」を感じさせない演出はスーパークール。ちなみに脚本は那須真知子。『デビルマン』でも大いに感銘を受けたばかり、ノリに乗っていると言えましょう。

 …と申しますか、『セカチュー』の監督+『デビルマン』の脚本家コンビに東映の社運をかけるとは…。大穴狙いにもほどがありますね。東映、ついに「篠沢教授に全部!!」なのか??

 吉永小百合は2005年、還暦を迎えられるそうで誠に慶賀の至り、そんな彼女が渡辺謙の奥方でラヴシーンを演じ、豊川悦司から思いを寄せられ、さらに香川照之からも言いよられるモテモテぶりにもほどがある! 大女優恐るべし。還暦祝? …吉永小百合前作『千年の恋 ひかる源氏物語』もたいがい凄い映画でしたが、今回の『北の零年』も負けず劣らず、これから吉永小百合主演映画はどんどん凄くなるのではないか? ますます目を離せない! 目を離すと居眠りするしー、と一人ごちたのでした。いや、「渡辺謙がいきなりチョンマゲを切る」のを目撃した吉永小百合の驚愕の表情など、思わず目が釘付けでした。

 ごく一部、クライマックスに豊川悦司が活躍するシーン、馬さん多数がドドドドッと逃げ出すシーンなど良いところもあるので、『千年の恋 ひかる源氏物語』が大丈夫だった方にオススメ。

(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA
Original: 2005-Jan-25;