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 Movie Review 2004・1月15日(THU.)

イン・アメリカ
三つの小さな願いごと

 思わず話に引き込まれ、握りこぶしにグググッと力が入ってもう辛抱たまらん! という作品がたまにあって、ダニエル・デイ=ルイス主演『父の祈りを』はそんな一本、そのジム・シェリダン監督の新作は、ニューヨークへ渡って不法就労するアイリッシュ一家のお話です。ババーン!

 まず、彼ら、夫婦+二人の娘の貧乏生活ぶりが身につまされます。やっと見つけたヘルズ・キッチンのボロアパート、住んでいるのは黒人、ヤク中毒、ドラァグ・クイーン、謎の隣人は人付き合い皆無で部屋にこもりっきり、ときおり「うおーうおー」と叫ぶ薄気味悪さ満点ぶり。父親は、俳優志望でオーディションに落ちまくり、母親は、アイスクリーム屋で働くも給料少なくギリギリの生活。

 例えばこれがケン・ローチならズーンと落ち込む話になるところ、「夢」「ファンタジー」「奇跡」の要素が加味されていて少々甘口でございます。とはいえ NY 貧乏暮らし話は、ジム・シェリダン監督自身の実体験に基づいているそうで、甘口の話に辛口リアリズムの風味が効いて絶妙に絡みあい、ウホッ! 舌の上でとろけるようだよ! みたいな? ってよくわかりませんが。

 ともかく、例えば夜店の賭けで、父親がつい熱くなって生活費すべてをつぎ込んでしまうシーンは、ギュッと手に汗握って思わず「ああーーっ!」と声を上げてしまうスリリングさですし、また、家族がトンネルを抜け、やって来ましたニューヨーク、ネオンサインのきらめきにワクワクする感じ、あるいは暑熱を避け、クーラーの効いた映画館で見る『E.T.』などなど、「家族の思い出」の数々に、私は何度も呆然と胸を熱くしたのでした。

 で、この『E.T.』を見る、というのがミソでございますね。

 そもそもアメリカの理想は何であったか? というと、映画でも言及されますが、かつての移民受け入れ場所ニューヨーク、自由の女神の台座に刻まれている碑文ではなかったか。

自由を渇望する汝の中の疲れし者、貧しき者、肩を寄せ合う者たちを我に与えよ。
家を失い、嵐に揉まれし者たちを我が下へ送れ。
黄金の扉の傍らに我は灯を掲げん。
http://www1.seaple.icc.ne.jp/jhishino/usefull.htm より転載)

 生まれた国にいられなくなった人々が、新天地を求めてやってくるのがアメリカであり、様々な人種からなる移民たちは「自由、平等、友愛」によって結びつこう、という理想があった。この『イン・アメリカ』、アイルランド移民一家が、隣に住む謎の黒人=“エイリアン”と親交を結び、心の傷が癒されていくという『E.T.』とよく似たお話、隣にエイリアンが住むアメリカでは、『E.T.』はリアリティ満点なのでございましょうね。

 それはともかく、もともと移民=異民を受け入れることを理想としていたアメリカが、イスラムとの対立を強め異民を排斥、イラクを攻撃するなど、世界に迷惑をかけまくっているのは一体いかなることでありましょうか? って昔からそうなんでしょうけど。ともかくこの作品は、アイルランド移民がアメリカ人となる過程を通して、アメリカの理想を描き出し、それは現在のアメリカを鋭く批判するのであった、と私は呆然と一人ごちたのでした。

 そんな話はどうでもよくて、後半、「奇跡」が起こるあたりとか、多用されるカットバックは演出過剰な気がしますが、姉妹を演じるサラ・ボルジャーとエマ・ボルジャー(実の姉妹だそうです)がバチグンに健気かつ可愛いのでオススメです。

☆☆☆★★(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA Original: 2003-Jan-15;

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