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 Movie Review 2003・9月6日(SAT.)

ロスト・イン・
ラ・マンチャ

『バンデッド Q』『未来世紀ブラジル』『フィッシャー・キング』『12 モンキーズ』など、超絶傑作で好き者をうならせてきたテリー・ギリアム、10 年来あたためてきた企画がいよいよ始動! 総製作費 50 億円、ジャン・ロシュフォール、ジョニー・デップ主演『誰がドン・キホーテを殺したか?』である! ババーン! しかし、撮影開始前からプロジェクトは難航を極め、まあ撮影が始まれば何とかなるやろう、との超甘い見通しの下、クランクインしてみればやっぱり駄目でした、ギリアム、ショボーン、という、製作頓挫の過程を記録した、あら珍しい「作られなかった映画のメイキング・フィルム」であります。

 このメイキングの監督は、キース・フルトンとルイス・ぺぺ。ギリアムの『12 モンキーズ』メイキング、『The Hamster Factor And Other Tales Of Twelve Monkeys』を製作、ギリアムもいたく気に入ったそうで、今回の抜擢となりました。『12 モンキーズ』メイキングは、アメリカ版 DVD には本編とともに収録されておりますが、日本版には収録されていないという憤懣やるかたない事態。

 それはともかく、DVD のオマケなどで見られるメイキングはおおむね成功事例で、いわばきれいごとに終始するのが常ですが、この『ロスト・イン・ラ・マンチャ』は失敗事例、映画製作のキッツイ部分がクローズアップされます。『地獄の黙示録』の撮影がいかに泥沼であったかを描いた『ハート・オブ・ダークネス』とともに、まったく映画を作るのは大変なお仕事ですね、と一人ごちざるを得ない。映画製作の裏側で映画人たちがいかに苦労しているかを見るにつけ、安全な場所からこれこれの映画は駄作とか詰まらんとかバチグンとかごたくを並べて☆★で点数をつけるという行為がいかに野蛮で傲慢なものであるかを思い知りたまえ。って私か。

 とはいえ、『誰がドン・キホーテを殺したか?』クランクインはどう見ても見切り発車、ロケ地上空を F-16 戦闘機が飛び回っていたりとか、段取り悪過ぎでございます。50 億円からの資金を他人様から預かっているというのに、こんないい加減なことでよいのでしょうか? 失敗したプロジェクトであるから、段取りの悪さが強調されているのでしょうけれど、まったく映画はお気楽な商売でございますね、とも思う。

 厳しくも 映画製作 気楽なり

 そんな一句はどうでもよく、少しだけ挿入される、撮影された断片はまさしくギリアムの映像で、『誰がドン・キホーテを殺したか?』を絶対見たい! との期待がむずむずと湧き起こってまいります。このまま、『誰がドン・キホーテを殺したか?』が作られないのは惜し過ぎます。と、いうか、ギリアムとともに風車に向かっていく太っ腹なプロデューサーはいないのか? どおりで大作といえば安全牌のリメイクやパート 2 、パート 3 ばかりになるわけですね。

 スタッフの準備がいい加減で撮影が思うように進まず、笑って場をなごませようとするギリアムの姿はメチャクチャ健気です。これが黒澤明だったら「このデコスケ!」と激怒しまくるところですね。まったくギリアムかわいそう過ぎですが、せめてもの救いは、これでキャリアが終わったわけでなく、後にジョニー・デップと組んで『ラスベガスをやっつけろ』を完成させ、また『誰がドン・キホーテを殺したか?』製作にも意欲を見せているらしい、ということで、頑張れ! ギリアム! と、私は安全な場所からエールをおくるのでした。

 ギリアム好きの方にはバチグンのオススメ。ギリアム? 誰それ? って方には何が面白いのかさっぱりかも知れません。

☆☆☆★(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA Original: 2003-Sep-5;

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