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 Movie Review 2003・7月30日(WED.)

人生は
ときどき晴れ

『ネイキッド』『秘密と嘘』のマイク・リー監督最新作。M ・リーは、キッチリとした脚本は書かずに、おおまかな状況設定のみを俳優に示し、セリフは、役になりきった俳優が作り出す、という方法を取っております。例えば、ストーリー上で登場人物が初めて出会う場面は、実際の撮影も、俳優をカメラの前で初めて出会わせる、という具合で、俳優の演技にはリアリティが溢れ、画面に独特の緊張感がみなぎるのであった。

 オープニングは、廊下を掃除する太り気味の女性の姿。「普通の映画」ならば、決してまじまじと映し出すことのない光景を、ジッとカメラは見つめます。もちろん 170 億円の法外な製作費をかけたゴージャスな映画を見て、あー面白かったと一人ごちるのも映画の楽しみですが、M ・リーが描く貧乏人庶民に感情移入し、身をよじった後、劇場外の現実へと放り出され「映画の中の人もたいへんですね、ああ映画の中の人でなくてよかった」と、吐息を漏らすのもまた、一つの娯楽であります。

 そんなことより、主人公ティモシー・スポール(『ヴァニラ・スカイ』など)は、ぐうたらタクシー運転手。妻は、スーパーのレジ係。太り気味の娘は老人介護施設の掃除人。太り気味の息子は、無職、家でゴロゴロしている。M ・リーは、この家族と、家族が住む共同住宅住人の、ノー・フューチャーな日常を丹念に描いていきます。

 貧乏な故か、ギスギスと会話も尖りがち、家族の食卓で主人公ティモシー「今日、こんな客を乗せてさー」と、会話のキャッチボールを始めようとしても、誰も受け止めず。レジ係奥さんは、スーパーまで自転車通勤しておりますが、ママチャリでもちゃんとヘルメットをかぶっているのは、偉いぞ! って、そんなことはどうでもいいのですが、圧倒的なリアリズム演技で繰り広げられる、閉塞感漂う日常に、「どこが『ときどき晴れ』やねん! 毎日土砂降りやん!」とツッコまざるを得ませんでした。つ、辛い。

 ネタバレですが、ラストに、スカッと晴れ間が見えてきます。…と、いうことは、この『人生はときどき晴れ』という日本語題名はネタバレではないでしょうか。原題は“All or Nothing”。…「全か、無か」って…。もし、この身も蓋もない題名のままであったなら、ラストの晴れ間を、格別の超感動をもって迎えられたことでしょうに。題名が『ときどき晴れ』だと、ラストに晴れ間が除くことをあらかじめ予測しちゃうじゃないですか。私の場合、事前に色々情報を入れちゃうとアレなんで(何?)、万全の態勢で事前情報カットに務めているのに、この題名はないんじゃないの?

 と、ワケのわからない言いがかりもほどほどにしておきますが、ポッカリ晴れ間が除き、私は、小さくはあるが確かな幸福感に包まれ、ソッと涙をこぼしたのでした。M ・リー最高! ちょっとイタリアン・ネオリアリスモっぽいところもあってバチグンのオススメです。

☆☆☆★★★(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA Original: 2003-Jul-30;

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