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 Movie Review 2002・12月3日(TUE.)

さすらいのカウボーイ

『イージー・ライダー』(1969 米)でメガヒットを飛ばしたピーター・フォンダが、1971 年に主演・初監督。アメリカで公開されたのは 2 週間だけという幻の作品が、デジタル修復、再編集、音楽も新曲が加わってのニュープリント公開です。

 ピーター・フォンダ扮する主人公ハリーは、アーチ(ウォーレン・オーツ)と 7 年放浪を続けてきたところ、若者ダンが加わって「カリフォルニアに行こう」ということになる。しかし、主人公ハリーはただ一人、嫁さんのところへ戻ると言う。1971 年という製作年度を考えると、「フラフラと過ごしてきたけれど、ヒッピーの聖地=“夢のカリフォルニア”なんて存在しないぜ、そろそろ大人になって家庭に戻ろう」ちゅう当時の世相を反映しているのであった。

 そんなことより、ハリーの嫁さんハンナ(ヴェルナ・ブルーム)の、もの凄いオバサン顔に我々観客は驚愕することになる。なんか“ブサイク”というと語弊がありますけど、「…むむむ、ピーター・フォンダが家出するのも無理ないわ!」って感じです。しかもこのオバサン、ハリーの留守中に雇った小作人と次々とまぐわった、と告白するではありませんか! ちなみに原題の“The Hired Hand”とは、“雇い人”の意味で、男なんて雇い人みたいなもの、寝るなら寝てもいいけれど、亭主ヅラしてもらっては困る、というオバサンの男性観を表しているのですね。つまり「ヒッピームーヴメントが終わってみると、嫁さんはウーマンリブだった!」ちゅう当時の世相を反映しているのであった。

 そんなことはどうでもよく、『イージー・ライダー』同様、セクシュアリティを揺らがせる男の物語でもあります。主人公ハリーはアーチが大好きなんだけど、アーチは別の若い男を加えて旅を続けようとする。拗ねたハリーは家に戻るが、やっぱりオバサンでは満たされないものを感じてしまう。しかし、アーチが窮地に陥ったと知るや、オバサンが止めても無駄だぜ、オレはアーチを救いに行くぜ! と再び家庭を捨てる。身を挺して友を救ったハリーの最後の言葉は、「オレを抱いてくれ!」…という具合に、ゲイ・リベレーション前夜の当時の世相を反映しているのであった。

 いや、そんなこともどうでもよく、なんでもピーター・フォンダは市川崑を参考にしてこの作品を撮ったそうです。なるほど、『木枯らし紋次郎』や『股旅』のような、卑近なリアリティ満点の作品となっておりますね。クライマックスの身も蓋もないリアリズム・ガンファイトは名シーンです。

 いやいやいや、そんなこともどうでもよく、この映画は名撮影監督ヴィルモス・ジグモンドの、デヴュー作として記憶されるべきであろう。…え? ヴィルモスをご存じない?  『脱出』(ジョン・ブアマン)『ロング・グッドバイ』(ロバート・アルトマン)、『愛のメモリー』(ブライアン・デパルマ)、『続激突! カージャック』『未知との遭遇』(スピルバーグ)、『ディアハンター』(マイケル・チミノ)…などなど、70 年代アメリカのイメージはヴィルモス・ジグモンドが作ったと言えよう。適当。しかし、ピーター・フォンダの証言によると、チェコから亡命してきたばかりのヴィルモスは、CM しか撮影したことがなく「ピーター監督、どこにカメラを置いたらええですかいのぉ?」と、いちいち聞くくらいだったとか。ヴィルモス・ジグモンド特有の、スモーク多用やフィルターワークは見かけられず、デビュー作は割と普通でした。

 そんなこともどうでもよい。妙にサイケデリックかつ実験的なオーヴァーラップは結構脱力なんですけど、『イージー・ライダー』、『ラスト・ムービー』(デニス・ホッパー監督)と合わせて、アメリカ映画史に興味を持っておられるマニアな方は必見です。そうでない方も、ピーター・フォンダ、ウォーレン・オーツがバチグンにカッコいいのでオススメでーす。

☆☆☆★(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA Original: 2002-Dec-03;

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