京都三条 カフェ・オパール Cafe Opal:Home

Home > Reviews > 01 > 1115
Movie Review 11月15日(THU.)

冷静と情熱の
 あいだ

『スウィート・ノベンバー』の惹句は確か「今年唯一のラヴストーリー」、さすれば『冷静と情熱のあいだ』の立場は一体? これはラヴストーリーではないのか? 何なんだ? と、私は大いなる疑問を持って劇場に臨んだのでした。

 江國香織と辻仁成による原作小説を、お茶の間の人気者、竹野内豊と香港の大スター、ケリー・チャン主演で映画化。原作は、二人の著者が二人の主人公それぞれの立場からひとつの物語を綴っていくという構成だったそうですが(原作は未読)、映画はその妙味を生かす知恵もなく、淡々と竹野内君中心に語られていきます。

 竹野内君は巨匠画家の孫で、国文科出身なのになぜかフィレンツェの絵画修復工房で修行しつつ働きつつ男前を生かしてヌードモデルもしたりの日々。約 10 年前に別れたケリー・チャンへの思慕絶ちがたく悶々とした日々を過ごしている…と、なんとフィレンツェでばったり再会。わお。なんたる偶然。焼けぼっくいに火が付いて、というお話。

 過去、二人の間には色々あったようで、現在は竹野内君には篠原凉子、ケリーには大金持ちのマーヴっちゅうステディがいて、竹野内君とケリー、再会してすんなりお付き合い、とはいきません。二人が如何に障害を克服して添い遂げるかでハラハラドキドキするならそれはラヴストーリーなんですが、何しろこれはラヴストーリーではないので、我々(誰)観客は、ハラハラドキドキしている場合ではなく、実際二人がどうなろうがどうでもいいので、まさしくこれはラヴストーリーではない、と私は確信したのでした。主人公二人って、なんかムカつきませんか? 竹野内君は自転車の整備もできずホイホイ原付に乗り換えるナルシーなヤツ、ケリーは厳粛な結婚式で爆笑したりする馬鹿者ですぜ。

 ラヴストーリーでないなら何か。これはイタリア人のいい加減さを告発する映画なのであります。絵画修復工房で竹野内君が修復をまかされたチゴーリなる画家の絵画が切り裂かれる事件が発生します。どうやら竹野内君が修復作業をほったらかしてケリーに会いに出かけた隙の犯行だったのですが、この工房の危機管理はどうなっているのか。窓際に修復中の名画を置いたままにしておくなんてことが許されていいのか。切り裂かれた絵画はかけがえのない世界の遺産、地球の記憶なのですぞ。フィレンツェ屈指の修復工房にしてこの有様です。おちおち修復も頼めやしませんね。頼みませんが。

 難クセをつけるのもほどほどにしておきます。すいません。

 さて二人は 10 年前の約束を果たしにフィレンツェのドゥモ(大聖堂)に登ります。日本人竹野内君の挨拶はもちろん、「どうも」。ウソ。それはともかく、ははーん、さてはテロリストが乗っ取った旅客機がこのドゥモに突っ込んでケリーと竹野内君は即死、悲劇の内に映画が終わるのだな、よかったよかった…との私の予想は見事にはずれ、思わず「ハメられた! このようにどうでもいい結末を迎えるとは! 『ソードフィッシュ』を超えた!」と暗闇で独りごちたのでした。二人の内どっちかは死ぬと思ったんですけどね。チッ。

 ともあれ、フィレンツェの街が圧倒的に美しい! この映画に唯一欠点があるとすれば、どうして緒方直人(最近は寺尾聡)のナレーションを入れて SONY Presents 「世界遺産」風にしなかったのか? という点です。ま、そのような欠点があってもケリー・チャンの顔とか、なかなか面白いのでオススメです。

BABA Original: 2001-Nov-15;

レビュー目次