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 Movie Review 2003・9月10日(WED.)

座頭市

 北野武監督最新作は、何と『座頭市』! ババーン! 「座頭市」といえば、もちろん勝新太郎一世一代の当たり役、というか、座頭市=勝新太郎、勝新太郎=座頭市、いわばフーテンの寅=渥美清、桑畑(椿)三十郎=三船敏郎、ダーティ・ハリー=クリント・イーストウッド、ルパン三世=山田康雄みたいなものです。他人様の当たり役を演じるとは、よっぽどの才能がない限りは失敗に終わること必至、しかしさすがは北野武である、うむ、と私は大いに満足したのでした。

 さて勝新太郎の座頭市の決めセリフは「また、つまんないもの斬っちまった…」、すなわち、いざこざ・争いを避けようとしながらも巻き込まれてしまうのが常だったのですが、たけし座頭市はそれを 180 度転換させます。人を斬りたくて仕方がないかのようなのです。このように争いに首を突っ込みたがるキャラクターは、黒澤明の『用心棒』『椿三十郎』と同じですが、桑畑(椿)三十郎がいやいや首を突っ込んでいるポーズを取っているのに対し、たけし座頭市は、ただうすら笑みを浮かべるのみで、争い・闘いを避けようとはしていない。

 悪党どもを正義の剣が斬り殺すのが時代劇のカタルシスですが、この作品には勧善懲悪の図式はない。悪党どもの悪逆ぶりが印象づけられないまま、アッという間もなく斬り殺されてしまいます。悪党の悪行は、露天商のショバ代を毎日取り立てるくらい、あるいは過去に強盗殺人を働いたくらいで、しかも座頭市はそれらを伝聞情報として得ているだけなのに、バッサバッサと斬り殺しまくります。悪党どもよりよっぽど危ないヤツです。『その男、凶暴につき』の刑事がそのまんま再現されているのであった。ていうか、賭場で、イカサマを仕掛けられていきなり繰り広げられる大殺戮シーンを見れば、たけし座頭市は殺人マシーンと言ってもよい。

 座頭市はいかにして殺人マシーンになりしか? 何でこいつはこんなに強いのか? が疑問でありますが、浅野忠信の浪人や旅芸者姉妹の過去が語られるのに対し、座頭市の過去は語られません。しかし、それを想像させるのが「金髪」であります。さて微妙にネタバレですが、たけし座頭市は、勝新座頭市とまったく違う存在であることが明かされます。たけし座頭市は異人さん(またはハーフ)なのであった。ガーン! メクラにしても異人さんにしても、当時は差別の対象だったと思うのですけれど、たけし座頭市は、異人さんとして差別を受けるよりもメクラとして差別されることを選択しているわけで、そこらへんに座頭市が過去に受けた差別の壮絶さと、なぜこのように最強なのか? を想像する余地が残されているのですね。座頭市を金髪にした北野武の非凡さに私はめまいを覚えたのでした。

 さらに、異人さんかもしれない主人公が活躍する時代劇といえば、小山ゆうの漫画『あずみ』があります。あずみもまた殺人マシーンで、先頃の映画化は上戸彩の好演もあって面白かったのですけど、やはり殺陣シーンに物足りないものを感じたわけで、北野監督もまた「自分ならもっと上手に映画化できる!」と歯がみしたのではないかしら。殺陣は、漫画『あずみ』と同等の切れ味です。旅芸者姉妹の妹は、漫画『あずみ』の「きく」とソックリだったりします。これはもはや『座頭市』の皮をかぶった『あずみ』であります(ただしエロなし)。と、すると、たけし『座頭市』で残念な点も見えてきます。漫画『あずみ』ほどには、悪役が魅力的でない。岸部一徳は例によっていい感じなんですけど、問答無用でたたっ斬られるほどの悪人ではない。もっと悪役が、斬られても仕方がない感じであったら、例えばイーストウッドの『荒野のストレンジャー』みたいな、より狂った大傑作となり得たかも? と一人ごちたのでした。

 そんなことはどうでもよくて、チャンバラシーンが圧倒的に素晴らしい! チャンバラアクションの画期といえばリアリズムを追求した黒澤明の『七人の侍』があります。最後の決戦前に菊千代が地面に何本もの刀を刺して「4 〜 5 人も斬れば、脂で切れなくなる」と言う。「映画で描かれるようには人は簡単に斬れないものですよ」という真実が暴かれた名シーンですが、たけし座頭市は「否、やはり刀は刃物であり、よく斬れるものである」とアンチテーゼを投げかけるのであった。冒頭、ヤクザが抜いた刀が、隣に立っている別のヤクザの腕を誤って斬ってしまうシーンでそれが鮮やかに示されます。指や腕がちょーんと跳んだり、背中をザックリ斬ったり、切れ味爽快! でございますね。

 殺陣シーンは、動きもさることながら、編集が見事です。北野作品かつては、ザックリとした静的な編集が魅力的だったのですが、前作『Dolls』あたりからダイナミックかつ緻密な編集に目をみはらされたもので、黒澤明以降、バチグンの編集ができる監督といっても過言ではありません。浅野忠信と座頭市の最後の対決シーンは、あまりの素晴らしさにうっとりしてしまいました。

 惜しいのは、即座に CG とわかってしまう CG が多用されていることです。本物である北野武の映画にニセモノ感を漂わせてしまっております。編集の素晴らしさでカバーされていますが、CG 無しで撮られていたら、CG 臭さが払拭されていたら…というのは欲張り過ぎでしょうか。

 いったん死んでしまった時代劇をよみがえらせようと、『御法度』『たそがれ清兵衛』などの意欲作が作られて来ましたが、ついに最高の時代劇が誕生しました。勧善懲悪でなく、主人公座頭市を異常な殺人マシーンとして描き、殺伐さをみなぎらせたのは、はるか板東妻三郎の『雄呂血』を彷彿とさせつつ、ガダルカナル・タカによる見事なコメディ・リリーフも抱腹絶倒、タップダンスはどうかと思いますけど、時代劇映画の伝統にのっとりつつ新しい時代劇を創造した北野武、最高! ということでバチグンのオススメ。

☆☆☆☆★★(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA Original: 2003-Sep-9;

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