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Movie Review 2月15日(THU.)

サイクリスト

 みなみ会館モフセン・マフマルバフ特集の一本。今回、まず 4 本を見た。それぞれ傑作。それぞれオリジナリティにあふれているが、強いて似ているものを探すなら『サイクリスト』はブニュエル、パゾリーニ、『パンと植木鉢』はゴダール、『ギャベ』『サイレンス』はパラジャーノフ、という狂いっぷり。それぞれにアヴァンギャルドなところがあるが、イランでは観客の熱狂的な支持を受けている、というから、イラン人恐るべし、だし、前衛的といってもほどよくユーモアもあるので安心だ(何が?)

『サイクリスト』はかつてイラン映画祭の一本として公開されたことがある。そのときは見逃し。その後、アッバス・キアロスタミの『クローズ・アップ』を見て、これが滅法おもしろく、そこに登場する『サイクリスト』という映画が見たくてしょうがなかったのだ。念願かなう。みなみ会館 RCS に感謝。ちなみに『クローズ・アップ』は、ある男が、イランの国民的監督であるらしいマフマルバフになりすました事件の再現フィルムで、事件の当事者が演じている、というこれまた狂った映画。

 さて。曲芸オートバイの回転運動を見る少年。その父とおぼしき初老のオヤジは、あらぬ方向を見つめる。彼らは親子であり、母親は重い病で病院のベッドで苦しんでいる。医師はオヤジに告げる。入院費を払わねば出ていってもらわねばならない、彼女は重病でいつ死ぬかわからない、それに同意する署名を。オヤジは書くのだ。名前:ナシム。職業:サイクリスト。ここにババーンとタイトルが出る冒頭からしびれる。タイトル読めないんですけど。

 オヤジは、イランで最下層に位置するであろうアフガニスタン難民だ。アフガンでは自転車のチャンピオンで、何日でも走り続ける自信がある。果たして、一週間ぶっつづけで走ることが出来るか? という見せ物が始まる。果たして…というお話。

 サイクリストといっても、イランの町並をさっそうと走り抜けることはなく、広場を半径約 2 メートルでタラタラと回転し続けるだけの過酷な見せ物だ。この回転運動は、労働者がおかれている状況そのものを指す。アフガニスタン難民の話であるが、イランは検閲の厳しい国であるが故の設定かな? 労働者は単調な回転運動を日々繰り返すのみ。やがて消耗・すり切れて行く。医師、警察、審判(司法?)も、決して労働者の味方ではなく、むしろ敵対するものであることが示される。労働者はみな孤独なサイクリストなのだ。

 と、いっても告発調のリアリズムはイランでは許されないだろうから、おとぎ話的雰囲気もあり、ところどころ爆笑必至のシーンもあるから安心だ(何が?)。息子の顔とかメチャクチャむさ苦しかったりして、そういう美意識の違いを楽しむという手もあるぞ。

 さらに、イランの撮影・録音技術が発展途上の 1989 年作品なんだけど、マフマルバフ独特のグラフィック感覚が素晴らしい。「詩的」っていうんですか? これが映画なのだ! と、叫びたくなる一本。叫びませんが。20 世紀オールタイムベスト 100 に入れちゃうね。入れれば? 必見の名作。83 分と短いのも得難い美徳だ。

BABA Original: 2001-Feb-15;

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