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 Diary 2004・4月19日(MON.)

ミルメーク

 本日は雨。かなり激しい雨が、降つたり止んだり。お客さんも来ないので、私は革手袋をはめた手で煙草をふかしながら、アグリッパの魔法に関する本を読み耽つてゐた。いかにすれば、この雨にたれこめられたやうな牢獄から、産業廃棄物で溢れんばかりのドブ川のやうな情報の奔流から、寝間着からほつれて身体に巻きついてしまつた糸のやうな資本の論理から、逃れ出ることができるのか。微かなコーヒーの香りで湿つた空気を撃ち破り、「自由」といふ乾いた感覚を我がモノにできるのか。今更、パソコンを壊してみても、仕方がないであらう。ラッダイト運動は必ず敗北するのだ。しかし、なぜ、私は今日も日記をかうやつて、ディスプレイ上に打ち続けてゐるのか…‥。

 タカハシくんが言ふには、宮崎の小学校では時々「ミルメーク」といふ謎の粉末が給食の時に配られてゐたさうで、これは牛乳に混ぜると甘いコーヒーミルクのやうなものに牛乳が変はるといふ代物であり、タカハシくんの同級生たちはこれが大好きで、「ミルメーク」の配られる日を指折り数えて楽しみに待つてゐたのだといふ。ところが京都に出てきてからこの「ミルメーク」の話を誰にしても通じない、誰も知らないと言ふので、いたく傷ついてゐるのださうだ。知らんな、そんな代物は。

 映画『バーバーショップ』では、店を売つてしまつてから、店の大切さに気づく。まァ、そんなもんだ。何でも、失つてからその価値に思ひ至る。もちろん、映画では首尾良く店を取り戻すことに成功するのだが、現実はなかなかさううまくは行かない。金よりも大切なものがある、それは人との繋がりだ、といふのがこの映画の主題だが、そしてそれは現実世界においても全くその通りなのだが、一方で「金の切れ目が縁の切れ目」といふ言葉もあつて、さう簡単にいかない所が難しいところだ。

 雑誌「カーサ・ブルータス」の今月号にオパールが載つてゐる。そこに、カフェ巡礼のメッカ、と紹介されてゐるので、みな来てほしいものである。嘆きの壁が、ここにはある。

小川顕太郎 Original: 2004-Apr-21;