京都三条 カフェ・オパール Cafe Opal:Home

Home > Reviews > 99 > 1110
Movie Review 1999・11月10日(WED.)

ウェイクアップ ネッド

 ボクたちの大好きなアイルランドものだ。え。好きぢゃないって? それは残念。実はアイルランドを舞台にした映画ってのは実に傑作揃いなのだ。古くはデヴィッド・リーンの『ライアンの娘』、ジョン・フォード+ジョン・ウェインの『静かなる男』、最近では『クライング・ゲーム』などのニール・ジョーダンの諸作、『クライング・ゲーム』でテロリストを演じていたエイドリアン・ダンバーが主演の『ヒア・マイ・ソング』などなど。

 これまた傑作の『コミットメンツ』で「アイルランド人はヨーロッパの黒人だ!」と言う台詞があったが、そういう虐げられた境遇が生み出すアイルランド人特有のユーモアが、良いのである。自分たちの国民性をネタにしているところは、我々関西人が関西の馬鹿なところをネタにしているのと同じ、と思われてならない。

『宝島別冊:異人たちのハリウッド』なんちゅう本を読むと、アイルランド人ってのは貧しい生活を脱するためにアメリカに大挙移民したのだけれど、民族的に差別されているものだから警察官や消防隊員などの危険を伴う仕事に就かざるを得なかったらしい。映画の中で警察官や消防官の葬式のシーンでアイルランド民謡が流れるのは、そういう警察・消防隊の成立過程に由来するものらしい。なるほど。ちなみにトム・クルーズ+ニコール・キッドマン主演の『遙かなる大地』では小作人がアイルランドを脱出し、当時アイルランド人がのし上がれる数少ない職業であったボクサーなんかやったりして、最終的にアメリカで自分の土地を得るまでが描かれていたなあ。

 ダニエル・デイ・ルイス主演のアイルランド解放戦線をネタにした『父に祈りを』も素晴らしかったが、『ボクサー』ってのは京都では上映されてないよね? …という具合に「アイルランド」に注目すると、様々なタイプの傑作群が立ち現れてくる。

 …と、完全なる余談はおいといて、『ウェイクアップ! ネッド』はアイルランドの人口 52 名のメチャクチャ田舎の寒村を舞台に、どうやらウチの村に宝くじに当たったヤツがいるらしい、という騒動の顛末を描く。

 とにかく、英語に堪能でなくとも判別できるアイルランド訛バリバリのジジイたちのトボけた振る舞いを見ているだけで退屈しないし、おまけにマイケル・ウィンターボトム監督作の常連のジェイムズ・ネズビットがいつも豚の匂いをさせている「ピッグ・フィン」という役で出ているので、それだけでオッケーである。監督はコマーシャル出身の新人らしいが、CM づくりの合間に丹念に脚本を練り上げたとあって、ムダはないが適度にモタモタしたテンポが心地よく、死体を巡るコメディの部分は「毒気の少ないヒッチコック」ともいうべき出来だ。とはいえ、爆発的におかしい、というシーンもなく、別にアイルランドでなくても、過疎の村なら成立しそうな物語なのが少々物足りなかったりするんですが(このようなタッチはアイルランドならではのもの、であろうが)なんとなくほのぼのした気分になりたい方にはオススメ。

 で、意味なく表紙をトムソン加工(不定形に型を抜くこと)したパンフなどの、この映画の日本での宣伝のタッチはシミジミと良い映画とは似ても似つかぬものだと思うが、どうであろうか?

BABA Original: 1999-Nov-10;

レビュー目次

Amazon.co.jp アソシエイト