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Book Review 1999・8月14日(SAT.)

憂国呆談」
浅田彰&田中康夫(幻冬舎)

 全体的な印象としては、田中の「愚鈍」さに浅田が例によってヌエ的にあわせている、といった所。その昔浅田は、粉川哲夫のような愚鈍な左翼にも存在意義がある、と言っていたが、同じような感じなのだろう。確かに愚鈍な左翼にも存在意義はある。それは右翼的なもの・保守的なもの・反動的なものの行き過ぎに対するブレーキになるからだ。田中の「愚鈍」な論調にはしばしば辟易させられるが、阪神大震災ボランティアや神戸空港建設反対運動などはたいしたものだと思うし、素直に賛意を表わしたい。以上のような意味で得るところも多いので、おすすめ。ただし、皆が買う必要はないのであって、図書館で借りるなり友達同士で回し読みするなりすればよいと思う。著者達もエコロジーの大切さを強調していることだし。

 ひとつ付け加えるなら、浅田の左翼体質=ルサンチマン体質がやはり気になる。例えば 96 年 5 月の対談で浅田は「今の社会状況では国民総背番号制にせざるを得ないところがあると思うよ。プライヴァシーさえちゃんと保護されれば」と言っているが、総背番号制にしてプライヴァシーなんてちゃんと保護されるのか? 浅田は不公平税制が是正されるためには仕方がないという論調なのだが、だからといって総背番号制にする必要はないだろう。源泉徴収という悪弊を止めて、政=財=官の癒着構造を解体する方向に持っていけばよいと思う。もちろんそれとて難しいだろうが、政府に対して国民が抵抗できる拠点を残す方向にものごとを進めるほうがよいのではないでしょうか、浅田さん。

 確かに末野興産のような所の巨大脱税を平気で見逃していたような税務署に、たかが 2 万円の申告漏れをいいたてられるのは不快でしょうが、だからといって強力な国民管理体制をひいてきっちり全員から税金をとれるようにする、という解決法はないんじゃないですか。こういうルサンチマン的な発想と、どうしても出てしまう「大きな政府」的発想が、古典的左翼っぽくて、アナーキスト出身(?)の私としては首肯できかねる点である。

オガケン Original: 1999-Aug-14;

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