京都三条 カフェ・オパール Cafe Opal:Home

Home > Reviews > 05 > 0322
 Movie Review 2005年3月22日(Tue.)

ビヨンド the シー
〜夢見るように歌えば〜

 いよいよ伝説のショーの幕が上がる。ババーン! 37歳で夭折したエンターテイナー=ボビー・ダーリンの生涯を、ケヴィン・スペイシーが製作、監督、脚本、主演、さらに美声を響かせ、軽快なダンスも披露して描きます。ババーン!

 監督としては、『アルビノ・アリゲーター』で達者なサスペンス演出を見せたケヴィン・スペイシー、演出力に不安なし。今回は見事なミュージカル演出を見せ…って、ミュージカル監督はジョン・ウィルソンという人だそうですけど、とにかく! ボビー・ダーリンに完全になりきって歌いまくり、踊りまくる至芸に私は茫然と感動したのでした。歌、うま過ぎる!

 37歳で死んだボビー・ダーリンの若き日からの生涯を、今年46歳になるケヴィン・スペイシーが演じるのは無理あり過ぎ! …なのですが、ネタバレですけど、映画は、[ボビー・ダーリンの伝記映画を、ボビー・ダーリン自身が演じて撮影している]という設定で、つまりケヴィン・スペイシーは、[若き日のボビー・ダーリンを演じる、中年にさしかかったボビー・ダーリン]を演じているわけで…ってよくわかりませんが、ちょっとしたトンチでその辺をうまく納得させております。

 さらに、中年にさしかかったオッサンが歌って踊りまくる、これが驚くべき鮮やかさで、ジーン・ケリーやフレッド・アステアの晩年を彷彿とさせる、見事なハリウッド製ミュージカルであるなぁ、うむ。と一人ごちたのでした。

 ケヴィン・スペイシーが入魂の演技、入魂にもほどがあるのですけど、風貌も似ているし(特に、髪の毛の具合。ボビー・ダーリンはヅラ)、ケヴィン・スペイシーは、ボビー・ダーリンを他人とは思えなかったのでは…? 最高の哀悼と敬意がこめられており、[演技を超えた演技]というか、[周りからどう見えていようと関係ない、完全な成りきりぶり]を観ることができる、至福の映画と申せます。

 ケヴィン・スペイシーがボビー・ダーリンに共感を抱いたのは、単に髪の毛の具合が似ていたからだけでなく、ボビー・ダーリンの、知られざる後半生が肝だったのでは? と愚考いたします。

 ボビー・ダーリンはベトナム戦争が激化した時代、ロバート・ケネディを公然と支持したり、それまでのスタイルを捨てて、ボブ・ディランまたはニール・ヤング風の[反戦フォーク]を歌ったことが描かれます。しかし、それは全然ウケず、失意に沈む。そこでボビー、一計(トンチ)を案じます。

「人は、見たものを聞く」。

 以前の、大衆が期待するスタイルで[反戦フォーク]を歌うと、馬鹿ウケしてしまう! 現在、[反戦]のメッセージがより広範な大衆をとらえたなら、米英日にイラク占領をやめさせる物質的な力となるはず、しかし、そうなりえていないのはメッセージの送り手に工夫が足りないからなのだよ、[見た目]を大事にしなきゃダメなんだよ、そんなことをケヴィン・スペイシーは訴えているのかもしれませんね。ちなみにケヴィン・スペイシーは熱心な民主党支持者で、クリントン大統領とも仲良しさんのようです。

 そんなことはどうでもよくて、当時のミッドセンチュリーな風俗・ファッションの再現ぶりも面白く、ともかく! 歌って踊るケヴィン・スペイシー最高! 特に、サンドラ・ディーに猛アタックをかけるノリノリ・イケイケぶりは、シュールな雰囲気すら漂う名シーン、バチグンのオススメです。

☆☆☆★★(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA Original: 2005-Mar-21;