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 Movie Review 2005年7月1日(Fri.)

キングダム・オブ・ヘブン

『グラディエイター』のリドリー・スコット最新作、オーランド・ブルーム超大作初主演。ババーン!

『グラディエイター』がことのほかヒット、爾来『トロイ』『キング・アーサー』『アレキサンダー』、莫大な製作費をつぎ込んでさっぱり面白くない史劇ものが続きましたが、映画を産業として成り立たせるために、雇用確保・仕事おこし的超大作を作り続けるアメリカはつくづく偉いなあ、と思うのですけど、そこはそれ、さすがリドリー・スコット、美術・衣装・映像が猛烈にカッコよく、また長編デビュー作にして最高傑作かも知れない『デュエリスト/決闘者』で中世の剣戟ものの実績あり、たぐいまれなるリアルな史劇ものとなっております。しかしながら上映時間143分、クライマックスのエルサレム攻防戦までは猛烈に退屈。

 なのですが、そのエルサレム攻防戦は『ロード・オブ・ザ・リング』の『二つの塔』『王の帰還』の成果をちゃっかり取り入れてる感じ、しかしCG臭さは微塵も感じられないハイクオリティのド迫力、とはいえ「投石機」のカッコよさは依然として『タイムライン』に及ばず、またイスラム軍がなんだかモンゴルっぽいのも気になるところですが、長々と待つ甲斐あるクライマックス戦闘シーンに仕上がっております。

 また昨今の、アメリカ帝国とその属国(日本、イギリスなど)によるイラク侵略、その大義名分の無さをチクリと暴きつつ、あるいはイスラエルによるパレスチナ人虐殺を揶揄しつつ、果たしてキリスト教徒とイスラム教徒の平和共存の国=キングダム・オブ・ヘブンは存在できるのか? というアクチャルな課題を、宗教対立の原点ともいえる十字軍からガッツリ考えてみよう、というリドリー・スコットの政治感覚と、性根が座った製作態度は絶賛に値する! と一人ごちました。

 イスラム軍、その指導者サラディンがアンソニー・クインやオマー・シャリフを彷彿とさせるカッコ良さで描かれてまして、逆にキリスト教軍の負け戦を描いているからか、イスラム圏では好意的に受け止められ、欧米ではあまりヒットしていない模様。

 お話はというと、主人公・村の鍛冶屋オーランド・ブルーム、いきなり「I'm your Father」と現れたリーアム・ニーソン(頼りにならない師匠を演じさせたらピカイチ)にそそのかされなんだかんだと十字軍に加わって出世、十字軍が占領統治する聖地エルサレムへ。

 オーランド・ブルームは、キリスト処刑の現場ゴルゴダの丘に行けば、聖なる気分感情がわき起こるかも? となかば観光客気分で行ってみても「うーん、なんか普通だなぁ」、聖なる軍隊を標榜しても十字軍とは結局、略奪と虐殺の軍隊でしかなかった! と卒然と悟ります。

 しかしそれでもオーランド・ブルームはエルサレム防衛戦で獅子奮迅の活躍をせざるを得ない、なぜなら民を守るのが真の騎士だからである! ババーン! ぐだぐだ理屈をこねる司祭を尻目に、民兵を組織して敢然と戦いにのぞむオーランド・ブルーム、イカしてますね。

 ここで描かれる「あるべき騎士の資質」は「兵士の資質」でもあり、『GIジェーン』『ブラックホーク・ダウン』で戦場・現場の兵士に共感と応援と哀悼のエールを送ってきたリドリー・スコットの面目躍如。そういえばリドリー・スコットはアップル・コンピュータ社の、『1984』をネタにしたCMで注目を集めた人、政治的には“リバータリアン”として一貫しているのだなぁ、と思う次第。

 そんなことはどうでもよくて、ネタバレですが、エルサレム攻防戦の結末が最高にカッコよいです。オーランド・ブルームは、圧倒的に優勢なイスラム軍に苦戦を強いて、イスラム軍指導者サラディンとの和平交渉にこぎつけます。オーランド・ブルームはサラディンに問います。

「エルサレムにどんな価値があるというのか?」

 サラディン答えて曰く

「Nothing! …………Everything!(ニッコリ)

 す、素晴らしい! まーはっきり言って、クライマックスの攻防戦までは字幕の女王・戸田奈津子氏の省略が効いた字幕のおかげもあって、なんだかピリッとしない感じ、いや、誰が字幕であったとしても退屈だと思うのですけど、映画は終わりよければすべてよし、私は茫然と感動したのでした。

 2時間24分の長尺、エルサレム攻防戦が始まるまでジッと我慢、十字軍がどんな感じだったかが何となく実感できますし、美術・衣装・映像は猛烈にカッコよいのでオススメです。

☆☆☆★★(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA Original: 2005-Jul-1;