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 Movie Review 2005年4月21日(Thu.)

理由

公式サイト: http://www.riyuu.jp/

 宮部みゆきの直木賞ミリオンセラー、ついに完全映画化! ババーン! 1996年6月2日未明、大嵐の夜、荒川区の高層マンションで発生した、一家4人殺害事件の顛末。

 私、読んでないのですけれど原作は「事件関係者の証言集」という体裁をとっているそうで、映画も、100名超の関係者が延々・続々と証言しまくるという、破天荒・奇天烈なスタイルとなっております。大林宣彦監督としては、『北京的西瓜』的疑似ドキュメンタリー的実験的手法をさらに全面的に展開した作品になっております的。

 面白いな、と一人ごちたのは、事件内容的には火曜サスペンス的/土曜ワイド劇場的ですが、そういう[火サス][土ワイ]においては、配役を見ただけである程度は犯人の目星がついてしまい、事件の全容もあらかた推理できてしまうのですが(はずれることも多い)、この映画『理由』では、登場人物それぞれがドドドーっと証言しまくり、チョイ役にも有名俳優さんを配し、最重要参考人・容疑者はなかなか証言に登場せず、演出・脚本上においてキャラクターは均等・均質、スーパーフラット状態、犯人を推理しにくく、きっと現実の事件の捜査・取材もそういうものなのでしょうね、と感じさせるリアリティがあります。一ヶの事件の関係者は膨大な数にのぼりますが、それぞれにそれぞれの人生、それぞれの事情(理由?)の重みがある…。

 100名超の証言者は、下町に忽然と建った高級マンションの居住者、管理会社の人、下町の住人たち、と多岐にわたって1996年日本の断面図をなします。ああ、そういえば約10年前の日本はこんな感じでしたなぁ、となつかしい気分になりました。事件の全容もなつかしい感じで、って今では日常茶飯的なものになってしまったのかもしれませんが、借金地獄、夜逃げ、競売(けいばい)、偽装家族などなどは、『ナニワ金融道』(青木雄二 著)のえげつなさを随分と薄味にした雰囲気、ここらへんの薄味具合が、宮部みゆき+大林宣彦のヒューマニズム、人を見る目の限りないやさしさなのでしょう。

 そんなことはどうでもよくて、「悲惨な事件の背景には、日本社会の歪みあり」「家族の愛に恵まれない幼少期を過ごした人は、凶悪犯罪を起こしても不思議ではない」みたいな感じのオチには、…って、これは私の特殊的な見方で、そんなオチではないかも知れませんが、少々脱力感・生ぬるさを感じました。家族の愛にはぐくまれてすくすくと育った善良な方・人格者が、凶悪犯罪を起こしてしまうケースは多々あるでしょう? …ってそういうことじゃない? よくわかりません。

 とはいえ、証言の中には感動的な話、しみじみと良い話、さめざめと悲しい話もあって泣けますし、ラスト付近で流れる「♪殺人事件がぁー結ぶぅーきずなぁーー」という主題歌や、幕間の実験映画風の映像など、大林宣彦監督67歳、いい感じで老人力が出てきてますので、2時間40分と上映時間長めですが、その長さもまた気色よくてオススメです。

☆☆☆★★(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA Original: 2005-Apr-20;