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 Movie Review 2004・11月8日(Mon.)

コラテラル

公式サイト: http://www.collateral.jp/

 その夜は、いつものように始まった… ババーン! 傑作『ヒート』のマイケル・マン監督、その後『インサイダー』『アリ』、そこそこ面白かったですけど、やはり拳銃をガンガンぶっ放す「犯罪アクション」こそが見たい! と一人ごちていたのがハリウッドに聞こえたのか、今回、主人公はロサンゼルスのタクシー運転手マックス=ジェイミー・フォックス、ある夜、たまたま乗せた客が×××(ネタバレ自粛)だったために、犯罪に巻きこまれていく、というお話。タイトルの「コラテラルcollateral」とは、「巻きぞえ」みたいな意味だそうです。

 以下、ネタバレ含みます。

 さてマックスのタクシーに乗り込んできたのは、冷酷非情、ハードボイルドな殺し屋ヴィンセント=なんとトム・クルーズだ! …って、宣伝でバレバレでした。今回のトム・クルーズは脇役・悪役で、こういうちょっと引いたトム・クルーズもなかなかよろしいんじゃないか、と。

 面白いのはこのヴィンセント、かなりダメな殺し屋でして、一晩のうちにロサンジェルス5ヶ所、5人の標的を殺して回る犯行計画に、なんと! タクシーに乗って移動するというアホさです。以前にも同じようにタクシー使って成功したからゲンを担いでいるのか? 免許持ってないのか? クルマの運転できないのか? 地図が読めないのか? よくわかりません。

 さらに殺し屋ヴィンセント、運転手マックスにカバンをポイーッとほかされてしまいます。そのカバンには、殺しのターゲットの資料が入っていたものですからさあ大変! 次のターゲットの居場所がわからない! …って、かなりのアホです。ゴルゴ13級の超A級スナイパーでなくても、これから殺そうという相手の居場所くらい頭にたたき込んでおかなあかんのとちゃうか? 一人殺しては、次の標的の資料を調べる、というのを繰り返していたのか? 行きあたりばったりじゃん!

 そもそも殺し屋ヴィンセント、やる気あるのか? と思わせるのが、一人目を殺したとき、死体をマックスのタクシーの上に落としてしまい、マックスのタクシーは、屋根はへこむは、フロントガラスは割れるは、誰が見てもあやしいタクシーなのにだ、そのあやしいタクシーに乗り続けるのですね。おまわりさんに「職務質問してくださーい! あやしいタクシーですよー!」と叫びながら走るみたいなもんですね。私がクライアントなら即・クビです。

 冷酷非情な殺し屋でありながら、実は抜け作というむずかしい役柄、トム・クルーズが演じると妙に説得力があるから不思議です。トム・クルーズ、やっぱり最高! ですね。

 ヴィンセントの抜け作ぶりに、私は『コラテラル』にこめられたテーマを見ました。この作品におけるタクシーとは、アメリカ合衆国そのものであります。アメリカは今や、アホでマヌケな白人殺し屋が、次々と暴走気味に人を殺していくのを、臆病なリベラル黒人が手をこまねいて見ている、あるいは消極的にせよ荷担している状況にある。白人殺し屋は、大金と拳銃でリベラル黒人をいいようにコキ使っている。

 しかし白人殺し屋は、心の奥底では暴走を止めて欲しい、誰かに罰して欲しいと願っております。リベラル黒人にこそ罰して欲しいのに、リベラル黒人はなかなか自分で手を汚そうとしない…。しかし、白人殺し屋がついに「司法」を手にかけようとしてついに、リベラル黒人はガッツを見せる、という裏のストーリーがあり、そう見ればヴィンセントの抜けた行動も納得がいきます。クライマックス、ヴィンセントは「俺を罰してくれよ!」との思いで、マックスを追いかけまわしていたのではないでしょうか。かどうかは見ていただいた方に判断していただくとして。

 そんなことはどうでもよくて、確か『ヒート』は、画面の奥から向かい来る電車で始まり、空港で終わる映画、この『コラテラル』は真逆、空港から始まり、去っていく電車で終わる、という具合で、これまたどうでもいいことですけれど、この『コラテラル』、『ヒート』をひっくり返した映画、と見ることができます。かも知れません。

『ヒート』では、アル・パチーノ=刑事ヴィンセント、ロバート・デ・ニーロ=犯罪者ニール・マッコーリー(=マックス?)、今回、善玉と悪玉の役名がひっくり返っており、また当初マックス役には、タクシー運転手役は昔取ったきねづかのデ・ニーロがオファーされていたそうで、そういえば殺し屋ヴィンセントが、やたら哲学・ジャズうんちくを語りたがるのは、アル・パチーノにピッタリの役柄、マイケル・マンとしては、ジェイミー・フォックスとトム・クルーズで、デ・ニーロ VS パチーノ対決を再現しようとしたのかも知れませんね。

 そんな妄想もどうでもよくて、マイケル・マン節とも呼ぶべき、ムーディな都会の映像、ガンガンと拳銃が撃たれ、ビターンとあっさり人が死んでいくアクションが素晴らしいのでありました。

 何でも今回、約80%がデジタル・ヴィデオで撮影されたそうで、映画のほとんどが夜間撮影、街灯だけでも充分な明るさで撮影できるデジタル・ヴィデオの特性がバチグンに発揮されており、ロサンジェルス、夜、タクシーがひた走る道路の雰囲気、ときおり挿入される空撮も滅法かっこよく、はたまたクライマックス、ビルの16階、停電で部屋の中は真っ暗、窓の外には煌々とした夜景が見える、みたいなカットに私はシビれました。

 また、『ヒート』のような10分に及ぶ大銃撃戦はないけれども、満員のディスコでトム・クルーズがターミネイター状態で拳銃をぶっ放して突き進むところなど、マイケル・マンのアクションセンス炸裂、大満足です。

『ヒート』のマイケル・マン監督が大好きな方に、バチグンのオススメです。IMDbによると、マイケル・マン次回作は、『武器と人(Arms and the Man)』、アメリカの連邦捜査官が、盗まれたプルトニウムを捜索するという話、次々作は……コリン・ファレル+ジェイミー・フォックスで『マイアミ・バイス』だ!! どちらもメチャクチャ楽しみでございます。

☆☆☆☆(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA Original: 2004-Nov-6
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