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 Movie Review 2004・3月29日(Mon.)

ペイチェック
消された記憶

公式サイト: http://www.paycheck.jp/

 記憶を売った報酬= 19 個のガラクタ。すべてのカギはここにある――。ババーン! フィリップ・K ・ディック(『トータル・リコール』『スクリーマーズ』など原作)短編小説を、ジョン・ウー(『狼たちの挽歌』とか)監督で映画化、となると滅茶苦茶面白そうですが、不安材料といえば主演がベン・アフレック! 製作がドリームワークス! 前半、ヒネリの効いた展開はディックっぽいんで(何?)、事前情報なしでのご鑑賞をオススメします。

 以下、ネタバレ含みます。

 まず、基本設定からして納得がいかないのです。ベン・アフレックは凄腕技術者で、っていきなり度肝を抜かれましたが、新技術が投入された製品を買ってきて分解、解析、より高性能なバッタモンを作る仕事をしており、製品を仕上げたら雇用主との契約で作業期間の記憶を消されてしまうのであった。

 ここで、なぜ、普通の「守秘義務」ではダメなのか? どうしてわざわざ記憶を消さねばならないのか? との疑問がむくむくと真夏の積乱雲のようにわき起こります。開発者の記憶が無くなってしまったら、製品に不具合が発生してバグ取りするとき、ひと苦労じゃないですか? 「ここの配線どうなってるの?」「……んーー、忘れちゃった!!」って感じで。それとも売りっぱなしでユーザーサポートしないつもりか?

 このへんは、いかにもドリームワークス的で、耳目を集める企画でダーン! と宣伝をうってそこそこ客を集めればそれでよし、肝心の作品はバグだらけでもそれなりに仕上がっていればよい、って感じ? 大抵の観客は細かいこと気にしないしー、みたいな? ちなみに脚色は、ディーン・ジョーガリス。『トゥームレイダー 2』の人です。ダメだこりゃ!(いかりや長介さんのご冥福をお祈りします)

 このディーン、なんでも政治映画の傑作、というか北朝鮮の洗脳スパイを描いた異様な映画『影なき狙撃者』(1962 年ジョン・フランケンハイマー監督、ヴィデオタイトル『失われた時を求めて』)のリメイク版脚本も担当しておられます。このリメイク版はジョナサン・デミ監督、デンゼル・ワシントン+メリル・ストリープ主演で面白そうなんですけど、脚本がディーンか……。ダメだこりゃ!

 そんなことより、原作は文庫本『パーキー・パットの日々』収録の『報酬』。読んだ記憶が消されてましたが、映画を見ている間によみがえってきました。原作では、2 年間、外部から遮断された研究施設で研究・開発にたずさわり、その施設は超極秘なので何も持ち出せず、記憶すら消されてしまうという契約で、しかし、特例があって、現金“報酬”を受け取る代わりに、ガラクタを持ち出すことができる……みたいな設定で、「記憶を消す」設定に一応説得力があるし、「主人公がなぜ現金報酬でなくガラクタ持ち出しを選んだか?」という謎をダーン! と提示し、ボチボチ謎解きしていくトンチ的面白さがあったのですけど、どうやら脚本担当ディーン氏、「原作の何が面白いのか?」がわからなかったようです。研究施設をもの凄い謎の場所として設定しないと、「記憶を消す」「ガラクタしか持ち出せない」というアイデアが生きてこないじゃないですか。それに、原作では 7 ヶのアイテムがジェームズ・ボンドの秘密兵器よろしく意外なところで活躍するのが面白いんですけど、映画では 19 ヶに水増しされており、何でも増やせばいいってもんでなく、面白いのは最初の 2 〜 3 ヶ、だんだんどうでもよくなってくるのであった。

 しかしさすがドリームワークス、そんなツッコミをヒラリとかわす奇策に出たのであった。それはベン・アフレックだ! ベン・アフレックならば「守秘義務」契約を結んでいても、酒場で女子をくどいて「オレ、こないだ○○社に雇われてさー、ものすごい秘密の開発してさー、ん? あの立体テレヴィはオレがパクって開発したんだぜ! 原理は……」とベラベラしゃべってしまいそうなんで、そりゃ誰だって記憶を消してやりたくなるのは当然。

 また、高額報酬の「記憶を消す」開発を何度もくり返さねばならないくらい身持ちの悪いヤツを演じられるのはベン・アフレックだけだ! それに映画では、現金報酬を断ってまでガラクタを受け取る意味がよくわからないしー、そんなウッカリさんもベン・アフレックにピッタリ、って感じですね。

 そんなベンのことはどうでもよくて、ディックの原作とは全然お構いなしにいつもの痛快アクションを炸裂させるジョン・ウーはやっぱり偉い。というか、こういう設定の阿呆さは香港映画っぽくてよろしいんじゃないかと。アクションシーンは普通ですけど、前半、ベン・アフレックがアッチコッチ逃げ回るのはヒッチコック『北北西に進路を取れ』風で面白かった。

 しかし、ジョン・ウーに、こんな SF 仕立てアクション、しかも「男の美学」とは無縁な(失礼)ベン・アフレック主演で撮らせるなんて勿体ない話です。というか、そもそもこれまでジョン・ウーがアメリカで監督して面白かった『ブロークン・アロー』『フェイス・オフ』にしてもトラヴォルタの悪役っぷりが最高だったわけで、アクション映画不毛の地=アメリカではジョン・ウーはいたずらに才能を浪費するだけです。そりゃアメリカ映画を撮る方がしこたま儲かるかもしれませんが、ジョン・ウーはとっととアメリカに見切りをつけていただきたいな、と一人ごちたのでした。ユマ・サーマンも、すっかり“美人女優”を脱却、アクション女優として出演してますのでオススメです。

☆★★(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA Original: 2004-Mar-28;
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