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 Movie Review 2004・2月18日(Wed.)

ジョゼと虎と
魚たち

公式サイト: http://jozeetora.com/

 大学 4 回生・恒夫(妻夫木聡)、ある早朝、暴走乳母車に乗ったジョゼ(池脇千鶴)と出会います。彼女は下半身マヒ、オババと二人暮らし、学校には行かず日がな一日読書の日々。彼女が自ら名乗る“ジョゼ”とは、愛読書=フランソワーズ・サガン『一年ののち』主人公の名……と、いう具合に、平々凡々大学生青年と、「不思議ちゃん」少女の恋物語という、ミニシアター系(?)ファンタスティックな設定、おまけに、ってよく知りませんが音楽担当は“くるり”、ところが…ってこともないのですけど、あにはからんや、圧倒的にリアルな「恋物語」、日本映画史に新たな 1 ページを書き加える名作なのであった。ババーン!

 と、いうか、「おって、おって」と泣きじゃくる池脇千鶴、「いちばん怖いものを好きな人と見たかってん」と虎に怯える池脇千鶴、一人で買い物に出かける池脇千鶴……を思い出すだけで、私は呆然と惻隠の情にとらわれ涙ぐんでしまうのでした。くすん。

 監督は、犬童一心(いぬどう いっしん)、『金髪の草原』はあまり印象に残っておりませんが、今回、かたや『さよならクロ』『ドラゴンヘッド』と好演続きの妻夫木聡、こなた『大阪物語』『化粧師 KEWAISHI』と好演続きの池脇千鶴という、好演続き同士が激突するバチグンの配役、丁寧に登場人物の表情・演技をじっくりとらえる見事な演出。

 犬童一心監督は、この作品は「ラブストーリー」ではない、「恋愛映画」だ、とおっしゃってますが、「恋の物語」を描いているけれども「恋愛映画」ですらないのかも知れません。と、申しますのも普通「恋愛映画」といえば、恋する二人の間に障壁があって、二人はそれを乗りこえ恋愛を成就させることができるでしょうか? チャララーン! とハラハラドキドキするものだと思うのですけど、この作品の凄いところは、いきなりオープニングで恋の行く末をバラしてしまうところで、恒夫のフォト・アルバム、誰に語るや知れぬモノローグにより、恋が燃え上がって終焉を迎えるのは明らか、物語的なハラハラドキドキは存在しないのであった。

 しかし、やはりこの作品は「恋愛映画」なのであり、恋愛とは一瞬一瞬をドキドキするもの、この映画は物語的なドキドキよりも、個々のシーン、一瞬一瞬にドキドキがあふれかえっております。まさしくこれが恋というものなのですね、と一人ごちたのでした。と、いうか、田辺聖子の原作ではどうなっているか知りませんが、脚本も凄いな、と。バスンと恋を終わらせるところとか。

 って、よくわかりませんが、ジョゼにとって恒夫との恋は、生涯ただ一度の恋かもしれず、それを悲しいととるか、ただ一度でも恋がでけたことを幸せと見るべきか? 恒夫のように根は善良、性欲と食欲に忠実に彼女をとっかえひっかえしてしまう鬼畜なところに、私は、何となく『ルールズ・オブ・アトラクション』的な、現代人の絶望=「人間が壊れてしまっている」印象を受けたのです。

 むしろ「こんな恋は生涯ただ一度」と思うことができる(思っているかどうかはわかりません)ジョゼこそが正常な人間ではないか、と一人ごちるのです。『ラスト サムライ』では「日本人は“名誉”を失った」ことが描かれ、この『ジョゼと〜』では、「大部分現代日本人は、生涯一度、最高の恋をする能力を失った」ことが描かれているのであった。

 それはともかく、一人で飯を炊き、一人で食い、車椅子で買い物に出かけるジョゼが強さを獲得したことは確実、こういう圧倒的に強い女性像は、かつて成瀬巳喜男、溝口健二ら昔の日本映画に存在したものである、あるいはトリュフォー『アデルの恋の物語』のアデルとか? と私は、呆然と感動したのでした。

 アハハハハと笑って、やがてダラダラ涙を流せる傑作です。存在の耐えられない軽さに呆然と涙する妻夫木聡、関西弁で憎まれ口を叩きまくる池脇千鶴、主演二人が最高でございます。バチグンのオススメ。

☆☆☆☆★★(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA
Original: 2003-Feb-14;

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