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 Movie Review 2004年12月28日(Tue.)

ターミナル

 空港ターミナルの食事を9ヶ月間食べ続けると、人間どうなる? ババーン!

 …ではなくて、彼は空港(そこ)で待ち続けた。約束を果たすために…。ババーン!

 トム・ハンクス扮するビクター・ナボルスキー、東欧の小国クラコウジアからニューヨークにたどりつくも、祖国でクーデター+内戦が勃発、パスポート+ビザが無効となって空港で足止めをくらってしまいます。

 アメリカに入国できず祖国にも帰れず、国交が復活する日をターミナルで待ち続ける…というお話。

 なんといっても『ポーラー・エキスプレス』で見事に演じた5役すべてがトム・ハンクスに見えてしまうという、芸域の狭さを誇るトム・ハンクスですので、「英語を話せない東欧出身者」を演じるのは無理あり過ぎです。「なぜ、この人は英語を話せないフリをしているのでしょうか?」との疑問を誰しもいだくのでは?

 芸域の狭さは、ジョン・ウェインにしてもイーストウッドにしてもシュワちゃんにしても、「どんな映画に出ても同じキャラ」なのがよいわけですから、アメリカの大スターには必須の美質、トム・ハンクスもすっかり大スターの風格ですね。

 それはともかくこの『ターミナル』、東欧・旧ソ連の地味な役者さん主演の方がよかったのでは? トム・ハンクスはむしろ悪役=空港警備局主任を演じた方が面白くなったのでは? …とか思いました。

 しかし、ターミナルに居続け、ある程度英語もマスターしてからはトム・ハンクスに対する違和感は薄れて面白くなってきます。

 ターミナルには何でも揃っているのに(吉野家の牛丼も!)、手持ちの金が少なくなり、ではいかにして生き続けるか? という、ちょっと『電波少年』風の、人体実験ドキュメンタリー(やらせ)番組の雰囲気が漂って、ちょっとしたトンチもあってグーです。

 面白かった『パリ空港の人々』(1993年・フランス)と似た話…というか、『ターミナル』は『パリ空港の人々』にインスパイアされた作品だそうで、しかしそこはさすが天下のスピルバーグ、ニューヨーク空港をまるまるセットで完全に再現するというすさまじい浪費っぷりです。

 私、愚考するに元々『パリ空港の人々』は「空港をネタに、あまりお金をかけずに面白い映画ができないか? シャルル・ド・ゴール空港で足止めをくってそのまま生活している男がいるらしいぞ、こりゃネタになる!」とゲリラ的に発想されたと思われる低予算向きの話、それをトム・ハンクス主演の大作にしてしまうのは、いかにもアメリカ的でございますね。トム・ハンクス+スピルバーグなら大ヒット間違いなしで投資が殺到、不必要に製作費がふくれあがるのでしょう。

 ちなみにモデルとなった、16年シャルル・ド・ゴール空港で暮らしたアルフレッド・マーハン氏はドリームワークス社から自身の話の映画化権の代価として30万ドル(日本円でおよそ3300万円)を受け取ったとか。うひょー!X51.ORG : 16年間、空港で生活する男 フランス

 わざわざ手間かけて空港のセットを作ったのは、なにぶん物騒なご時世で撮影の許可が下りないのもありましょうが、むしろスタンリー・キューブリックの映画作りを模倣した、と私には思えます。

『A.I.』あたりからスピルバーグは、キューブリックをめざしている印象で、キューブリックは「映画のすべてをコントロールしたい」と『シャイニング』でホテル一軒をセットで作りあげましたが、スピルバーグもそういうのがやりたいのでしょうね。ビクターを監視するカメラは、『アイズ・ワイド・シャット』みたいですし。

 しかしスピルバーグは、キューブリック流の完璧な映画づくりをめざすのでなく、あるいはハートウォーミングな小咄を撮るのでなく、中学生が喜びそうな特撮映画をこそ撮るべきと思うのだ。…って余計なお世話でした。

 そんなことはどうでもよくて、後半いろいろ感動ネタが繰り広げられますが、リアリティ薄く嘘くさいのがさすがスピルバーグです。ビクターがなぜ空港にとどまり続けるのか? その理由も嘘くさいし、警備主任がビクターを目の敵にするのも嘘くさいし、トレッキーネタも取って付けたみたいで嘘くさい。ビクターがトンチでロシア人を救い、それがターミナル従業員の間で美談として広まっていきなり人気者になるのが死にたくなるほど嘘くさいし。

 そもそもターミナルで数ヶ月暮らす、内乱中の国の男がいるというネタを、アメリカのマスメディアが取材に来ないのが、もんのすごく嘘くさいです。

 それに、東欧(あるいは旧ソ連)と思われる小国の人は不自由で、アメリカには自由がある、ターミナルは自由と不自由が行き来する場所、ヴィクターは英語をマスターし、自分で金をかせぎ、労働することによって自由を拡大、スッチー(訳:戸田奈津子)とディナーもできちゃうよ! みたいな話はいかがなものか? と。

 ともかく、せっかく空港セットを作ったというのに、飛行機が突っ込んできて大パニックになるとか、大地震が起こるとか、GODZILLAが踏みつぶすとか、色々使い道があるはずなのにまったく勿体ない話です。

 とはいえトンチあふれる中盤は面白いし、空港好き・ラウンジ好きの方にはピッタリの作品です。掃除人インド人のおじいちゃんが最高です。オススメ。

☆☆★(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA Original: 2004-Dec-20