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 Movie Review 2004・4月22日(Thu.)

花とアリス

公式サイト: http://hana-alice.com/

 君、だれ? ババーン!

 キットカット(チョコ菓子)サイトのプロモーション(客引き)ムーヴィー短編を再編集、長編に仕立てての公開でございます。いちいちキットカットサイトに行かずとも、岩井俊二監督作品が見られるのは、ファンにとっては喜ばしいことでございますね。

 とはいえ、機動性を生かしたヴィデオ撮りで、前作長編『リリィ・シュシュのすべて』に比してもヴィデオ丸出しな画質、また、監督自身作曲によるクラシック調ミュージックが高らかに鳴り響くと、セリフ聞き取りづらいことはなはだしく、劇場で鑑賞するには、少しく苦しくございました。

 また、客引きムーヴィー短編として見たなら、さして気にならないであろうところも気になりまして、例えば物語の発端。

 主人公ハナちゃんは、電車で見かけた男子にストーカー行為を繰り返しています。その男子と同じ高校に入学し、同じ落語研究会に入部。執拗につけ回していたところ、その男子・先輩がシャッターに頭をぶつけて脳しんとう起こしてさあ大変! しかしハナちゃんは、先輩が思考停止状態なのにつけいって「先輩! 私のこと好きって言いましたよね!」と偽りの記憶を植え付けるのであった…。ガーン!

 これすなわち洗脳、ヤバくないですか? その後もハナちゃんは大の仲良しアリスちゃんと共謀、過去の恋愛までも捏造し続けるという、凄い、というか、鬼畜なお話です。…そんな無茶な話で 2 時間 15 分をえんえん引っ張る演出力は、さすが岩井監督である、と、申しましょうか、偶然の出来事の刹那、そんな嘘がつけてしまうハナちゃんに私は恐怖を感じたのでした。「ありえな〜〜い! メッシュ、ダッシュ、また来週」と逃げ出してしまいたいくらい。

 そんな関西限定ギャグはどうでもよくて、画質・音質の不具合、設定の珍妙さはおいといて、岩井監督のストーリーテリング、話の作り方の巧さには、茫然と感動しました。

 岩井監督といえば、キャッチーな映像感覚で定評があるそうですが、なんせ私ときたらコマーシャル風・MTV 風の映像が超苦手な旧世代でございまして、何が良いやらとんと了解できず、この『花とアリス』でも、ハナちゃん、アリスちゃんが通うバレエ教室にて、チュチュを着用した娘さんらが、きゃっきゃきゃっきゃ騒ぎながら、様々なポーズにてパチリと撮影大会にうち興じるシーンは、睡魔が轟音をたてて襲い来たものでした。

 他面、脚本家・ストーリーテラーとしての岩井監督作は、プチ・トンチの効いた、落語・小咄の味わいがあって割と好き。と思っておりましたら、岩井監督は落語研究会出身とのこと、さもありなん、ぽん、と膝を打ったのでした。

 岩井監督は、『JAM FILMS』の一編を見ましても、短編小咄を語ればズバ抜けているのですけど、今回も、アリスちゃんが、離婚して別居中お父さんと一日デートするお話、浜辺で見つけるトランプの話など、しみじみ良い話。しかししかし、演出家としてはどうなのでしょう? 浜辺のトランプの話なんか、どんな図柄のトランプを無くしていたとか、もっとわかりやすく伏線をはっておけば、感動もひとしおだったのではないでしょうか? よくわかりません。

 また、例えば、雑誌モデルのオーディションでのアリスちゃんのダンスも、話としては面白いのですけれども、演出が間違っているのでは? と感じてしまいました。

 アリスちゃんはタレント事務所にスカウトされ色んなオーディションを、やる気なく受け続けます。そんなある日のオーディション。カメラマン(大沢たかお)に、「バレエやってんの? 踊ってよ」と言われてしまいます。バレエを踊るにはトウシューズが要るんである、ぞんざいに「踊ってよ」などと言うんじゃない!

 しかし健気にもアリスちゃんは、「踊ってもいいですか?」と、即席トウシューズを紙コップとガムテープでこしらえ、バレエを踊り始めるのであった。

 ここで、どこからか音楽が流れ始め、華麗なカメラワークと編集でアリスちゃんダンスが延々とくり広げられ、それはもう、ため息が出る美しさであったことでした。素晴らしい! ……おっと、思わず見入ってしまいました。これはこれで美しいのですけれど、ここは音楽を流さない方がよろしいのでは? 紙コップ+ガムテープが、床とこすれる音だけが、ズダーンズダーン、きゅっきゅっと、ただ殺伐と響くのみ、みたいな方が面白かったかも? と一人ごちるのです。勝手に一人ごちておれ、って感じですけど。

 前作長編『リリィ・シュシュのすべて』 は、14 歳のリアル、ドロドロの人間模様が展開、岩井俊二監督の持つ暗さ・意地悪さがガーン! と吹き出した傑作である、と了解しております。この『花とアリス』にしても、ハナちゃんが行う無自覚なストーカー行為に、私は暗さ・意地悪さを感じてしまいます。おぞましいとも思う。というか、ハナちゃんが無自覚なるがゆえに、おぞましさ倍増、みたいな? なるほどストーカーとは、この作品で描かれたように、美しい幻想に生きているのでございましょう。

 他にも、アリスちゃんの自堕落な母親、大沢たかおカメラマンの「お前、何様のつもりやねん!」な態度などに、暗さ・意地悪さがにじみますが、今回はそれが、美しい映像と音楽でコーティングされたままなのであった。

 ここで私は卒然と悟る。暗い、歯ごたえのある話を、美しい映像と音楽で包むとは、これまさにキットカット(チョコ菓子)の構造を映画に移し替えているのではなかろうか?? 暗さ・意地悪さは、チョココーティングされて口当たりは甘甘(少しビター)、かみしめればサクサク、ハヴ・ァ・ブレィク、早速私はキットカットをコンビニで所望、食し、美味なりと嘆息を漏らし、見事なプロモーションである、とごちたのでした。

 そんなことはどうでもよくて、14 〜 15 歳くらい女子の生態が見事にとらえられ…って、そんな年頃・娘さんの知り合いはおりませんので、「見事にとらえられているように思えた」ってことですけど、それは幻想であるやもしれぬ、とはいえハナちゃん=鈴木杏、アリスちゃん=蒼井優はバチグンの好演、ヴィデオっぽさを我慢できる方にはオススメです。と、いうか、私は、音楽が過剰でなく、フォトジェニックでもない、岩井俊二監督によるフィルム撮りの映画が見たいのであった。

☆☆☆(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA Original: 2004-apr-22