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 Movie Review 2004・4月16日(Fri.)

25時

公式サイト: http://25thhour.jp/

 俺に残された 最後の自由な 24 時間。ババーン! エドワード・ノートン扮するモンティ・ブローディガンは麻薬の売人、密告され逮捕され保釈され、収監されるまでに残されたのは 24 時間! ガーン! 優男モンティにとって刑務所に入るとは、もはや人生の終わり、ごつい囚人にレイプされるかもしれず、殺されるかもしれずとビビりまくり、しかし麻薬の売人なんて酷い目に会えばいいのです、いい気味ですね、…と突き放してしまえないのは、このモンティ、瀕死のワンちゃんを助けるという善良な面があるのであった…。

 監督はスパイク・リー、例えば傑作『ドゥー・ザ・ライト・シング』ラストの引用文など、何が善で何が悪か? という、私の倫理観を常に揺さぶってきた監督さんです。麻薬の売買は確かに悪で、悪事を働けば罰を受けるのは当然、刑務所送りもやむなし、しかし、レイプや殺人が日常茶飯的に起こる刑務所ってどやねん? そんな刑務所に行く必要あるのか? アメリカの囚人さんが『刑務所の中』(崔洋一監督)を見たら、「いったい、『刑務所の中』のどこが刑務所の中やねん! メーン!」とツッコむこと必至ではないでしょうか? とアレコレ私は、善悪とは? 罪とは? 罰とは? について思いを巡らしたのでした。

 閑話休題。今回、スパイク・リーにとっては珍しく(初めて?)主人公が黒人ではなく、アイリッシュ白人です。しかしアラン・パーカー監督傑作『ザ・コミットメンツ』セリフによると「アイリッシュは、ヨーロッパの黒人」、それならスパイク・リーがアイリッシュを主人公に映画を撮っても不思議ではないでしょう。と、いうわけでもなく、アイリッシュの大統領はいるけど(ケネディ、レーガン)、黒人大統領は未だ生まれず、アイリッシュはヨーロッパでは黒人でも、アメリカでは黒人より少し上流? よく知りませんが、やはり、9.11 同時多発テロが大きく影響を与え、スパイク・リーに白人主人公の映画を撮らしめたのではないか? とつらつら愚考する。

 現代アメリカ映画では、9.11 同時多発テロに言及されるのは極めて稀で、確か『スパイダーマン』では、世界貿易センタービルにスパイダーマンが蜘蛛の巣をはるシーンが撮られていたのに、急遽シーンが差し替えられたと聞きます。アメリカ映画の中では、同時多発テロどころか、貿易センタービルすら無いことにされたわけですが、この『25 時』で、ついに、というか、やっと? ニューヨーカーが普通に 9.11 について会話をまじわすのであった。

 モンティの友人バリー・ペッパーは、貿易センタービル跡地の隣のマンションに住み、「たとえ、もう一機、飛行機が突っ込んできても俺は引っ越さないぜ!」と言ったりする。モンティの父が経営するアイリッシュパブの壁には、亡くなった消防士の写真が飾られている、とか。9.11 同時多発テロについて語ることはアメリカ映画で半ばタブー化していたと思うのですけど、それを打ち破ったのはさすがスパイク・リー、ラジカルでございますね。いつものような黒人映画でなく、白人を主人公にした作品でやっているのが凄いな、と思いました。

 そんなことより罪を犯し、罰を受けるのをビクビクして待つモンティは、アフガン・イラク民虐殺という罪を犯し、ベトナム戦争的泥沼にはまりつつあるアメリカ帝国そのものと重なります。田舎でひっそり家族を大事にして天寿をまっとうする生き方こそ、アメリカ人のあるべき人生=真のアメリカニズム的人生である、しかし、もはやアメリカ人にとってそれは夢であり、茫然と罰を受ける瞬間を待ち続けるしかないのだ、とスパイク・リーは主張している……かどうかはご覧になったみなさんに判断していただくとして。

 そんなことはどうでもよくて、黒人が主人公でなくとも、スパイク・リー節は健在、『テン・ミニッツ・オールダー』でも展開されたような、シャベクリでぐいぐいグルーヴ(何?)を盛り上げるシーンが素晴らしいです。エドワード・ノートンが鏡に向かって、「俺は黒人が嫌いだ! 俺は韓国人が嫌いだ!」など、各人種まんべんなくののしるシーンが凄いし、ラスト、父親(ブライアン・コックス。元祖レクター博士)がえんえん語る、モンティの人生設計シーンもメチャクチャカッコよいです。「どこまで話作るねん!」と思わずツッコミたいくらいでした。

 上映時間が 136 分と無闇に長く、少々ノンビリしたシーンもありますが、たった 24 時間しか残されていないなら、そういう退屈な時間も不可欠なのでありましょう。オススメ。

☆☆☆★★(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA Original: 2004-apr-15