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 Movie Review 2003・8月21日(THU.)

マイ・ビッグ・
ファット・
ウェディング

 邦題は一見、普通のラヴコメって感じですが、原題は“My Big Fat Greek Wedding”=「私のギリシャ式大げさな結婚」、ギリシャ式というのが味噌でして、ギリシャ移民の娘が白人男性と恋に落ち、結婚式までのドタバタを描くラヴコメかつ人種ネタコメディでございます。

 さしたる事件が起こるわけでなく、結婚すること自体が事件である、と言わんがばかり、すなわち「葬式、それ自体が映画的である」と伊丹十三が『お葬式』を作ったみたいなものですけど、普段あまり目にすることのないギリシャ移民気質が露わになって、ギリシャ人って面白いですね、と一人ごちたのでした。

 主人公の父親のキャラが良いです。と、いうか、キャラがピチッと立っている映画は安心できますね。この父、ギリシャ料理店を経営、「ギリシャ文明こそが全ての文明の起源である」との確信の持ち主で、「何か言葉を言ってご覧なさい、その語源がギリシャ語であることを教えてあげよう」というのが持ち芸です。「それじゃ KIMONO は?」と聞かれていささかも動じず、キモノの語源がギリシャ語である説を滔々と述べるところなど素晴らしくおかしいです。

 同時にこの映画は、ギリシャ移民共同体のビッグファットぶりと対比して、白人アングロ・サクソン・プロテスタントの貧しさを照射するのであった。白人アングロ・サクソンは、何を失ってしまったのか?

 ギリシャ文明は民主主義を生み出し、それはヨーロッパの基本原理となってアメリカに渡り、やがてアメリカは「民主主義こそが最善である」「非民主主義は悪である」との信念にもとづき他国へ乗り込み無茶苦茶することとなる。

 ギリシャ人は、民主主義を生み出しつつ、血縁・家族・一族のつながりをとことん大事にし続けます。伝統を熱烈に重んじているのですね。他方、白人夫はというと、結婚のためならギリシャ正教に改宗することためらわず、ギリシャ移民に溶け込んでいきます。たいそう物わかりがよく、他民族に偏見を持たないナイスガイでありますが、ここまで葛藤の跡を見せないのはいかがしたものか?

 アメリカ白人民族は、自分の民族に誇りを持たず、伝統を守るということを知らず。だから改宗するのにためらいはないし、他方で他民族の伝統を踏みにじることにも鈍感となって、「民主主義の押しつけ」をしてしまうのではないかしら。ギリシャから民主主義だけを受け継ぎはしたけれど、民族意識を持てなかったことが、今日のアメリカ帝国の傍若無人ぶりの根っこにあるのだ。適当。と、いうか、民族共同体の強固さにおいて、ギリシャ人と白人の中間に位置すると思われる日本人は、ゲラゲラ笑いつつも色々考えさせられる作品です。

 そんなことはどうでもよく、テオ・アンゲロプロスの深刻さとは違った、ギリシャ人の愉快な一面をお楽しみください。オススメ。ちなみにタイトルグラフィックは、『博士の異常な愛情』『華麗なる賭け』、最近では『MIB』などのベテランにして名手パブロ・フェローが担当。

☆☆☆★★(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA Original: 2003-Aug-21;

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