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 Movie Review 2002・11月7日(THU.)

バスを待ちながら

 キューバの田舎町にあるバス停留所。大勢の老若男女がなかなか来ないバスを待っています。やっと来たぜセニョール! …と思ったバスは超満員。臨時バスは故障中。果たしていつになったらバスに乗れるのやら。うーん、こうなったらバス待ちの客みんなで、バスを修理しよう、ついでに停留所もペンキを塗って奇麗にしちゃうよ!  おや、こんなところに伊勢エビが。みんなで食べましょう、満腹した後はダンスをしましょう、…という、底抜けに明るく陽気なラテン・ムーヴィー! …なんですけど、結構露骨に社会主義プロパガンダが行われております。

 バスとは、すなわち世界経済の寓意に他なりません。キューバは、アメリカ主導の経済封鎖によって物資不足にあえいでいる。そんな苦境にあっても、バスの待合い客(キューバ国民)は、創意工夫によって楽園を築くことができると信じ、それぞれの能力を生かして停留所にコミューンを形成します。小悪人は改心し、美しいカップルが結ばれる夢の世界が現出し、当初の「バスに乗る」という目的は消え失せている。「世界経済のバスに乗れなくても、キューバだけで社会主義建設は可能である」という安物の社会主義プロパガンダ。しかし、この映画の凄いところは、「社会主義の理想は共同幻想に過ぎなかった」と一瞬でプロパガンダ批判に転じる点にあります。現実のキューバは、そんなロマンチックは許さない、と。

 しかし、そこで自棄になるのでなく、「できることから始めて行こう」「人と人との小さな出会いを大切にしていくことから始めて行こう」との呼びかけが示され、幕切れは爽やかです。ていうか、頑張れキューバ! こういう、わかりやすい形で社会批判が成される限り、キューバの未来は明るい。適当。

 監督は、『苺とチョコレート』(私は未見)の共同監督の一人、ファン・カルロス・タビオ。登場人物が、映画と同名の書物を読むとその通りに物語が進行するなど、ちょっとラテン文学っぽいシュールなところもあり、微妙にブニュエル風のところもあります。

 アホアホな雰囲気を放ちつつ、ピシリと筋の通った快作。ラテン好きな方は必見、そうでない方にもオススメ。

☆☆☆★★(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA Original: 2002-Nov-07;

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