京都三条 カフェ・オパール Cafe Opal:Home

Home > Reviews > 02 > 0215
 Movie Review 2002・2月15日(FRI.)

メメント

 とっくに上映は終わってしまってなんとも間の抜けたレビューですけど、まあおつき合いくださいな。あ、でもネタバレ厳禁だそうですので、見てない人は読まない方がよいですぞ。

 妻がレイプ殺人されたとき殴られたショックで、約 10 分以上短期記憶が保持できなくなった男が、一生懸命妻殺しの犯人を突き止めようとする話ですが、なんといってもこの映画の面白さは「革新的リワインド・ムービー」ってことで、ちょこっとずつ過去へさかのぼっていく映像スタイルにあり。…って、それしかないような気もしますが、「すぐ忘れる」粗忽な主人公の心理状態をうまいこと観客に追体験させようとしており、なんちゅうか、「映画を上映途中から見て、最初の方は後から見る」みたいな、または「映画の途中で寝てしまって、はて、今、物語はどうなっているのだろう?」と頭の上にハテナマークをプカプカさせてる、みたいな中途半端な感覚が全編をおおってなかなかに秀逸であります。

 話によると今アメリカでもっともノってる映画監督スティーヴン・ソダーバーグも、この『メメント』の監督クリストファー・ノーランの才能を高く買っててノーランの次作『インソムニア』をプロデュースするとか。実際、映画の文法を解体しながらエンターテインメント作品に仕上げてしまう頭の良さ――うるさ型の批評家も喜ぶし、興収も上げちゃうしたたかさ――は共通した資質でございますね。

 その昔、ジャン=リュック・ゴダールがデビュー作『勝手にしやがれ』を仕上げると、何せ評論家アガリの素人なもんで、上映時間が 3 時間近くになり、こりゃたまらんと天使のように大胆にカットしまくったら、こう、ひとつのシーンでカットがピョンピョン跳ぶジャンプカットっちゅう手法を編み出してしまったり、『気狂いピエロ』では適当につなげちゃえと時勢をグチャグチャにしたら、昔の人は「おお、それ斬新やん!」と喜んだそうですね。ソダーバーグやクリストファー・ノーランは、そういうかつての前衛の手法を「どんな人種でもどんな文化水準の人でもわかる明快さ」を備えねばならないアメリカ映画で見事に活用しております。

 そもそもアメリカ映画をリスペクトし、アメリカ映画みたいなオモロイ映画を撮ろうとしたけどアメリカ映画とはダイブンと違ってしまった、ヌーヴェルヴァーグの「非アメリカ映画」的な手法が、結局アメリカ娯楽映画に見事に取り込まれてしまった、ということで「アメリカ映画やはり恐るべし」と私は呆然と感嘆の声を上げたのでした。

 ま、そんなことはどうでもよく、「記憶は捏造される。確かなのは記録!」と、主人公はポラロイド写真・メモ・刺青で自らの体験を記録、「自分史」をリアルタイムで紡いでいくのですが、結局それも捏造されざるを得ないことが示されます。『羅生門』(黒澤明監督)以来、映画が長年取り組んできたテーマ:記憶/過去の捏造プロセスを面白おかしく映像化した画期的な作品なのである。適当。

 って、ことで機会がありましたらぜひ。DVD が出たら、時間軸通りに編集し直して見てみようかと思っております。そっちの方がよっぽど面白かったりして。

BABA Original: 2002-Feb-15;

レビュー目次