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 Movie Review 2002・12月26日(THU.)

ゴースト・
オブ・マーズ

『エスケープ・フロム LA』『バンパイア 最期の聖戦』と、作品はぶっちぎりに面白くなっているのに、公開形態がどんどん寂しくなってるジョン・カーペンターの新作です。

 22 世紀の火星。人類の入植が進められており、ちょうど西部劇におけるフロンティアの状況。囚人護送列車内から、ただ一人、失神したメラニーが発見される。演じているのはナターシャ・ヘンストリッジ。『スピーシーズ/種の起源』のセクシーエイリアン役でその筋では有名な女優さん。果たして一体何が起こったのか? ババーン!

 物語はナターシャ・ヘンストリッジの回想を通じて語られます。そう、回想。『クライム & ダイアモンド』で毒舌ジムが喜んだように、「回想」こそがもっとも映画的な物語形式ではあるまいか。回想の中でも、他の人物が回想するという、回想の入れ子構造も生まれています。回想する主人公が最後まで死なない、というのが観客に了解されるのでハラハラドキドキは薄れるものの、キューッとひきこまれる感じで、回想、最高。

 そんなことはどうでもよくて、以下、ネタバレあり。メラニーたち警察隊は、凶悪犯罪容疑者アイス・キューブを護送するためにシャイニング・キャニオンに向かいます。到着してみると、町の人々は、蛮族に虐殺されていたのであった、というか、町の人々が野蛮化して、野蛮化しなかった人々を虐殺していたのであった。

 火星には先住民というか、「火星の亡霊」がいて、それに乗り移られた人間は野蛮になって、自分の身体を傷つけ奇怪な装飾を施し、文明人を虐殺するようになる。亡霊に憑依されるとただただ野蛮になる、というのが凄いです。警官隊と囚人が共同戦線をはり、野蛮人どもと壮絶な闘いを繰り広げますが、……これって、「白人が黒人と共同で、未開人を虐殺しまくる」という、「本心は撮りたいんだけど撮れなくなっちゃった西部劇」または、「アフリカの土人を殺しまくる冒険秘境もの」を、火星に舞台を移しているからいいやろ! とやっちゃってまして、ジョン・カーペンターの秘めたる差別主義者ぶりというか、アメリカの田舎者ぶりが露わになっているのであった。つまり、ムチャクチャ面白い!

 こういう、侵略者が先住民を虐殺しまくる作品として、『スターシップ・トルーパーズ』があります。『スターシップ〜』の場合、先住民は「虫」扱いで、侵略者の側も超マヌケに描いてバランスを取っていたのですが、『ゴースト・オブ・マーズ』の場合は、そこまで悪賢くない。首がチョーンとすっとぶ残虐描写も満載、良識ある方はさぞ眉をひそめられることでしょう。というか、良識ある人はこんな映画見ないか。…つまり、こっそり公開されるのにもワケがある、ということでしょうかね。

 蛮族を虐殺するにあたっての、白人と黒人の共闘関係が面白いです。平穏な時代には、黒人は取り締まりの対象で牢屋にぶちこまれているが、いったん有事の際には釈放されて戦闘に放り込まれる。平和が戻れば、また元の境遇に逆戻りと知る黒人は、さっさと逃げ出す。白人と黒人の融和は、かりそめにしか過ぎないことを暴いているのであった。適当。

 ともかく、ジョン・カーペンターの B 級魂が炸裂、コンピュータグラフィックスの使用を最小限に抑え、「驚き」を忘れない特撮もバッチリ、クールなアイス・キューブ最高、ナターシャ・ヘンストリッジはアクション女優開眼、パム・グリアも笑わせてくれるのでバチグンのオススメ。あー面白かった。

☆☆☆★★(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA Original: 2002-Dec-26;

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